歪みの国のアリス

□キミがいて ボクがいて
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アリス、今キミがここにいてくれて本当によかった。












僕らはみんなアリスのことが大好きだよ。
それはキミが絶対的な存在だからじゃなくて、キミが僕らを生んでくれたからじゃなくて、キミが僕らを必要としたからさ。
キミには僕らが必要だった。
僕らがいないと幼いキミは歪んでしまっただろう。
でもね、僕らはキミに手を差し出しているつもりでも、キミは僕らに関わる時は、必ず僕らを助けるんだよ。
何故かって、それはそうだと決まっているからさ。
僕らをつくったキミでないと、僕らに変化を与えられないからさ。
歪みの国の扉を閉じる前、公爵と公爵夫人は結婚式を上げ、廃棄パンが生まれ、帽子屋とネムリネズミのお茶会が始まり、時間くんは女王に捕らわれ、トランプ兵は半分に破られた。
そして扉は閉ざされてから、その間僕らは変わらない生活を送っていたのさ。
変わらないというのは、いつまでも結婚式が開かれ続いて、廃棄パンは廃品回収車が来る度に暴れ、お茶会は終わりを迎えずに荒れ果てて、時間くんは牢屋に入り続け、トランプ達は自分の下半身を探し続けるってことさ。
僕らはキミがいないと本当に変わることができないのさ。
キミは白うさぎを探す傍ら、僕らを助けてくれる優しさもある。
キミ自身のことだけでも大変なのに、僕らのことも気にかけてくれる。
僕らに涙するのはいただけないけど、そんなところもあるアリスだから、みんなアリスが好きなのさ。

僕もアリスが大好きだよ。
これは告白じゃなくて当たり前のことなんだ。
(けれど僕の言うアリスへの好きは、みんなのそれとは違う好きも含まれる。変わり始めている。このことをキミは知らなくていい)
僕らは変化を与えてくれるアリスに、変化を与えなくてはならない。
キミが僕ら無しにでも、普通に生活出来るようになって欲しいんだ。
それが僕らの望みだよ。
いつでもキミの幸せを祈っているよ。
そして、今キミはこうして病院にいるよね、生きているよね。
僕らにはこの事実がとても嬉しいんだ。
だから、いつかおばあちゃんになって寿命が来るまで、キミ自ら命を絶つだなんてしないで欲しい。
もう、二度と繰り返してはいけないよ。
お母さんに殺されそうになったからというのは知っている。
お母さんに殺される自分を見たくなくて、オナカを刺したんだよね。
白うさぎも間に合わないくらいの、一瞬の判断だった。
…皮肉かもしれないけど、お母さんはもうキミを殺せない。
それならキミは自分で自分を殺すこともないんだよ。
キズは大丈夫かい、心のキズはまだ癒えなくても、いつかキミの心を埋めてくれる幸せをくれる人と出会うんだよ。
アリスはきっと僕らを忘れてくれるよね。
僕らはアリスが大好きだから、忘れて去られたって全然気にしない。
僕らの方がかってにアリスを好きなんだからさ。

さよなら、アリス。
さあもう一度歪みの国の扉を閉じるんだ。
キミが今見ている僕との悪夢は、アリスが目覚めた時には忘れているだろう。
アリス、扉が閉じてから僕らを思い出すことがあったら、もしその時キミが悲しかったら、僕らは扉が閉ざされた時のままアリスを大好きでいることを覚えていて。
そのことだけでキミの悲しみが少し楽になってくれれば嬉しい。
また扉を開く程の悲しみに落ちないことを祈るよ。







私も、

アリスは声を出そうとした。

「私あなたたちに心から感謝しているわ。チェシャ猫…」

しかし、その声が届いたかどうか分からないうちに、彼女は猫と居た白昼夢を忘れ去る。













アリス、今キミがここにいてくれて本当によかった。

大好きだよ。



fin.

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