歪みの国のアリス
□落ちていく
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お母さんは死んでしまった。
厳密には、白兎が殺した。
お母さんは私を助けてと言ったんだ。
それに答えた白兎が、お母さんを殺したんだ。
私を助ける方法は、お母さんを殺すしかなかったの?
お母さんは私の代わりに死んだの?
白兎、あなたがただ歪んでしまったからなの?
「うさぎは繊細なんだよ」
首だけの猫が言う。
「繊細…」
「僕らの中でも、彼は特に繊細だった。僕だったら、アリスが成人するくらいまでは保ったよ」
それを聞いて、あまり代わり映えはしないと思った。
「白兎だけが、君のそばに居たからね。他に尺がなかったのもある。彼は過保護だから、アリスだけでも解決出来る歪みまで吸い上げた時もあったのさ」
私は、そうかもしれないと思った。
「そうなのかも、チェシャ猫。あなたの言うとうり、白兎は繊細で過保護だったのかもしれないわ」
でも、
「それは、お母さんを殺す理由になるかしら」
私は怖いのだ。
過保護な兎が私を助けるため、とお母さんを殺したのだとしたら、私がお母さんの死を望んでいたかのようだ。
「…アリス」
私がふと振り返ると、屋上へと続く階段の入り口に、包帯を頭にまとった女が立っていた。
「オカアサン…」
ゆらゆらとした動きで、女はどこを目指すでもないような歩行をした。
「アリス、歪んではいけないよ」
そう猫に言われて私は一度猫を見て、また顔を戻すと、そこには何者かの気配すら残ってはいなかった。