歪みの国のアリス
□旅立つキミにさよならしよう
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僕はアリスに痛みを与える。
肉体を失った僕は彼女の手の甲に痛みを与えるのが、今できる精一杯のことだ。アリスが悪夢に落ちないように、僕の悪夢に誘う。
僕の存在も形状もアリスが作り出した。だから僕を消すのもアリス次第だが、彼女が僕を忘れない限り僕もアリスに影響を与えることができる。
「アリス、大丈夫だよ。何も心配ないんだからねぇ」
アリスに届かない言葉を、僕は眠る彼女にかけ続ける。きっとアリスは夢の中で泣いている。
「…おか……さん」
アリスは苦しそうに、うなされている。熱があるのだ。
「アリス、大丈夫だよ。いい子だからねぇ」
彼女の手の甲に、痛みを与える。
薄く目を開いた彼女は、熱い息で浅い呼吸を繰り返す。ぼんやりとした眼差しは、どこも見ていない。
「…ぅ…」
彼女は僕が痛みを与えている手を持ち上げようとした。その行為は半ば成功し、半ば失敗した。彼女は傷口を触らないように腕を固定されていたため、指先が持ち上がるだけに終わったのだ。
何かを考えているような顔をしていたが、やがて瞼がとろりと落ちていく。
「おやすみ、アリス」
fin.