中短編

□ときめく
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ときめく→胸がドキドキする





















颯爽とは言い難いが、それくらいのスピードで大股に廊下を歩く



彼が近付けば生徒は自然と廊下の端によけ、彼の目の前に道ができる




ごく当たり前のことのようにそうやって出来た道を歩き、時折難癖をつけては生徒を減点するために立ち止まる











私は彼の後ろ姿をじっと見つめていた


通り過ぎたあとに残ったかすかな薬品の香りが鼻をくすぐった




その匂いにすらも心拍数があがる














魔法薬学教授、セブルス・スネイプ




彼の仕草一つ一つに胸がどきどきと音をたてる











悪い噂しか流れていない彼にこんなドキドキを覚えるようになったのは、去年





授業で初めて出会い、教授がまとう妖艶な雰囲気に心を奪われたのだ

年上の人が放つ独特のオーラ















そんなある日、私は罰則をくらってしまった


作業中によく分からない言いがかりをつけられたのだ




ロンやハーマイオニーが理不尽だと怒って教授に文句を言いにいこうとするのを必死でなだめながら、なんともいえない期待と不安に心が覆われていった












その夜地下室への暗くて湿った階段を降りていると、やがて不安のほうがじわじわと大きくなっていった




コンコンと扉を叩くと中から声がした














部屋に入ると薬品の匂いがむっと鼻をつく

けれど不快ではなかった




同じ空間にいて同じ時間を共有していることが事実となったいま、不安なんかどこにもいなかった










「さて、罰則だが…鍋を洗ってもらう。魔法なしで。」

「ま…魔法なしでっ?!」





自力でこの大量の鍋を洗えというのか


私は衝撃に支配されつつも仕事にとりかかった














キュキュッ
ゴシゴシ

カリカリ



鍋をこする音と羽ペンが動く音しかしない











しかしその無言が心地よく、なにかくすぐったかった



















「コクソウ」

「はいっ」



突然呼ばれた自分の名前にビックリして思わず声が裏返りそうになる













「この鍋まだ汚れているぞ。真剣にやっているのかね?」

「は、はい。すみません。」








近い、近いよ教授っ!!



心臓がすごい速さで音をたてる

聞こえてないのを願うだけ












「なんだね?顔が赤いようだが。」

「な…なんでもないです。大丈夫です!!」


嗚呼、さらに近付かなくてもいいから





「風邪なんてものは、引かないように。」

「っ!!!」





嗚呼だめだ
心臓さん、破裂する






















「お前の点数がさらに落ちたら迷惑だ」
「…はいっ////」


 

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