ある日。


ドボンッ!!


「あ」


つい、弟を湖に落としてしまった。
「兄さん、兄さん、殺し愛しよ?」と迫ってきたのが鬱陶しくて、たまたま湖の近くでうっかり投げ技をかましたら偶然湖に落ちてしまったのだ。そしてかれこれ一五分。未だ弟ージンが浮かんでくる気配はない。
……うん、俺は悪くない。多分。えーと、なんだ、正当防衛とか業務上過失致死っていう奴だ、これは。

「よし、帰ろう」

俺が自己完結して湖に背を向けた瞬間、ざばぁっと湖の水が噴き上げる音がした。

「チィッ、トドメを刺し損ねたか!……あ?」

ジンが復活したかと思いきや、湖には眼鏡をかけた巨乳で美人なねーちゃんが眩い光を放って立っていた。……何故か二人のジンを猫の子のように両手にぶら下げて。

「あ、アンタ一体……」
「私は湖の精霊です。貴方の落とし物を届けに来ました」
「えっ……、ちょ、別に届けに来なくてっ…「貴方が落としたのは……」

ねーちゃんは美人だが人の話を聞く耳は持っていないらしい。
俺の言葉を遮ってずずいっと俺の目の前にぐすぐす泣いているジンと、にこにこ無邪気な笑みを向けてくる二人のジンを突き出した。

「貴方が落としたのはこちらの泣き虫でお兄さんがいないとダメな弟君かしら?それとも、こちらの無邪気にお兄さんを慕ってくれる弟君かしら?」
「ひくっ、兄さんっ、置いてっちゃやだぁ……兄さんと一緒がいいよぉ……」
「兄さん、兄さん、僕、兄さんの作ったご飯が食べたいな。ね、ダメ?ダメ?」
「……っ!」

俺は思わず絶句した。
見た目は大人でも、二人のジンの表情や中身はガキの頃のジンそのもので。泣き虫で甘えたな俺の大切な弟が、弟が、帰ってきたのだ……!

「お、俺が落としたのは……」

しかし悩む。
俺がいないとダメな泣き虫ジンも、無邪気に笑って甘えてくるジンも二人とも可愛い弟だ。どちらかを選べと言われても、選ばれなかった方のことを考えると辛い。
……いや、ちょっと待て。この童話的流れ……正直に答えると2つとも貰えるんじゃないか!?
そうか、ならば正直に答えるしかない!

「俺が落としたのはソイツ等じゃねーよ。俺が落としたのは、鬱陶しい位好き好き言いながらしつこい位迫ってくる綺麗な顔して歪んでる、隙あらば俺を殺したり犯ろうとするヤンデレな弟だ」

よし、顔は引きつったけどよく言った俺!ねーちゃんも満足そうに笑っている。

「正直者のアナタにはご褒美としてこの泣き虫ジン君と甘えたジン君を……」
「兄さぁぁぁぁんっ!!!」
「ぎゃあぁぁ!!?」

ねーちゃんから可愛い弟ズを受け取ろうとした時、盛大な水しぶきをあげてヤンデレな弟が姿を現した。

「嬉しいよ、兄さんっ……僕のこと、そんなに求めてくれるなんて!」
「ちょっ、シナリオとっ……!」
「凍れっ!」
「きゃぁぁぁ!」

あぁ、湖のねーちゃんと可愛い弟ズが氷漬けにされて湖の底へと沈んでいく……。

「さぁ、兄さん。邪魔者はいなくなったよ。これでゆっくり……」
「して、たまるかぁぁぁっ!!」

……そして俺は本日二度目の投げ技を弟にかますのだった。




(あぁ、この湖が沼だったら……!)








[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ