「アナタはただジン君と血が繋がっているだけ」

ソイツの声は静かなのにやたらと耳に響く。

「アナタは今までジン君の何を見ていました?」

ざわざわと風に吹かれる木々と一緒に俺の心もざわざわと騒ぐ。嫌な汗が背中を伝う。

「アナタは妹の兄であっても弟の兄ではない」
「違うっ……!」
「違う?」

叫んだ俺をせせら笑うように肩を竦めたソイツは風に流された前髪を掻き上げ、細い目を開いて金色の眼を見せた。
笑っているのに笑っていない。
ソイツのまるで蛇のような目に睨まれて、俺は情けないことにぐうの音も出なかった。

「まぁ、アナタがどう思っていようが関係ないんですよ。私はただ……」
「ラグナ!」

背後の教会から婆さんの悲鳴に近い声と一際大きな風が吹いたのはほぼ同時だった。
そして婆さんの方を振り向いた後、風が止んだのと同時に前に向き直ったがアイツの姿はどこにもなく。
まるで狐に摘まれたような心持ちで立ち竦んでいると婆さんが駆け寄ってきて俺を抱き締めた。
大丈夫?何もされてない?血相を変えた婆さんが矢継ぎ早に尋ねてきて、俺が何もされてないと答えればホッと安堵の息を洩らす。しかしすぐに厳しい表情で、アイツとは絶対に二度と話してはいけないし、見かけたら教会の中に入るようにと言ってきた。
アイツは何なのか聞いてみても、ただ『よくないもの』としか答えてくれない婆さんが不満だったが俺はしょうがなく頷いた。
でも俺は次にアイツに会ったら、最後に何を言っていたのかを聞きたかった。何だか、酷く大切なことを言っていたような気がするから。









『私はただ、あの子が欲しい』












(そして運命の日は間もなくやって来た)









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