※フェイクハニーの続編みたいな話です。ラグ→ジン←ハザ風味。




今日は行商人のおっさんが賭事に勝ったとかで機嫌が良くて、珍しく菓子なんてくれた。
俺は甘いものはそんなに好きじゃねーから早速サヤんとこに持っていた。病弱なサヤは寝込んでいることが多いがここ最近は調子が良いみたいで、持っていた菓子を嬉しそうに食べてくれた。
そんな調子のいいサヤとは逆にジンの方は最近様子がおかしい。
いつもは兄さん兄さんと鬱陶しい位くっついてくるのに、食事の時位しか顔を合わせないし、全然喋らない。
俺がサヤばかり構うと言ってまたいじけてるのかと思えばそうでもない。
俺も、サヤも、婆さんも、まるで何も視界に入ってないような、そんな虚ろな目をしたジンを婆さんはやたらと心配していた。
俺はジンもようやく兄離れをし始めたのか、なんて呑気に考えていたのだが……婆さんは何やらジンに外に出ないように言っていた。
俺はそれを聞いてから少し不安になった。
サヤの体が弱いのは術式適性が『異常』に高いせいだ。だからこうして俺達は魔素の薄い場所で暮らしている。そして血が繋がっていても俺の術式適性はかなり低く術式は全くと言っていい程使えないのに対してジンの方は容姿も体質もサヤに近いらしく術式適性はサヤ程ではないが異様に高い。今までは問題なかったが、ジンもそのせいでサヤのように体を壊してしまったのだろうか?
そう考えると酷くいたたまれない。
サヤのことばっかりで、ジンの異常に早く気づけなかった。いや、気づこうともしなかった。

「……兄貴失格だな」

ため息をついて井戸の水を汲む。
今日の当番はジンなのだが流石に気が引けて俺が引き受けた。
『これでも食べて部屋で寝てろ』
そう言ってサヤにもやった菓子をジンの手のひらに乗せてやると一瞬だけ虚ろな瞳に光が宿った気がした。しかしジンは小さく頭を下げただけで、何も言わないまま婆さんに手を引かれて部屋に戻っていった。

「大丈夫かな……ジン」
「アナタがあの子の心配をするのですか?」
「!?」

不意に聞こえた知らない声にばっと顔をあげる。井戸の向こう側、森と燃えるような夕日を背に知らない奴が立っていた。髪は緑で目は糸のように細い。年は多分俺より一つか二つ上。皺一つない白いシャツに黒の短いタイとサスペンダー付きの黒のズボンといったどこか育ちの良さそうな服を着たソイツは薄い唇をつり上げて酷く気に障る嫌な笑みを浮かべていた。

「誰だ、お前」
「私ですか?私は『お兄ちゃん』ですよ」
「は?誰のだよ」
「ジン君の」

なんで、こいつはジンのことを知っている?ジンは俺以外の人間とはろくに喋らないし、近づかない。それがなんでジンの……あぁ、くそ!わけわかんねぇ!! だが二つだけハッキリしてる。ジンは俺の弟で、ジンの兄貴は俺ってことだ。

「ジンの兄貴は俺だけだ!いい加減なこと言うんじゃねぇ!」
「本当に?」
「何?」

怒鳴る俺にソイツは益々不快な笑みを深めた。



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