※カグツチ町ネタ。
※テルハク未満。







猫が好きだ。
かといって飼うほどの甲斐性があるわけではない。
だから自宅の庭にふらりとやってくる彼らに少しの餌を与えては時折撫でては可愛らしい声を楽しんでいる。
目が光を失って久しいが一人での不自由な生活にも慣れた。そして数年前から心に空いた穴も猫と、親切な周りの人々に大分癒されてきている。

「……静かだな」

慎ましくも穏やかな日々を深く感謝して過ごしていたが、それはある日を境に過去のものとなってしまった。

「一体どうしたというのだ……」

一週間ほどまえから、我が家の周りから猫の姿が途絶えた。否、元々私には彼らの姿は見えないのだが。問題は敷地の外に気配は感じるのに、彼らが敷地内に入って来ないこと。
餌を変えたわけでも、犬を飼い始めたわけでも、無体を働いたわけでもない。
そして原因がわからぬまま心の慰みを一つ失い沈んでいた私の心を更に沈ませる存在があった。

「ハックメンちゃーん!今日もよろしくぅー」
「貴様……」

騒音の原因の名前はテルミといった。
探偵なんて言っているが胡散臭いことこの上ない男だ。
本来なら関わり合いになりたくない人種なのだが皮肉にもうちの整体院の常連だったりする。

「貴様ってお客様に失礼じゃーん」
「貴様がお客様だと?笑止」
「じゃ、患者様。ほら、ハクメンちゃんセンセー!俺ってば背中が痛くて死にそうなの。だから早くハクメンちゃんセンセーの超絶テクで俺を極楽に連れてって〜」
「……下衆が」

鬱陶しいほど私の体にまとわりついてくるテルミを些か乱暴に施術台に寝かせる。

「あ〜ん、乱暴はだめぇ〜」
「いい加減そのうるさい口を閉じろ」

ふざけた言動の数々にこめかみの痙攣が止まらない。
しかし整体師として患者の施術はきっちりする義務があるため、私は施術に集中することにした。終始テルミが騒いでいたが右から左に流す。
そして十数分経った頃だろうか。
ガラガラと戸が開く音に顔を上げる。患者ではない。廊下を軋ませる足音には聞き覚えがあった。

「仕事中悪ィ」
「ラグナ、」

ラグナは数年前まで同居していた年下の親戚だ。テルミが下で何やら喚いているが背中の急所の近くを押して黙らせる。

「ジンがたまにはアンタを晩飯に誘えっていうから……。だから、その、なんだ……送迎サービス」

ばつが悪そうな口調に思わず頬が緩む。昔からラグナは私や『あいつ』を苦手としていた。嫌われてはいないようだが、素直になれないようで。そんな子供っぽさが可愛いのだが、本人に言ったら激昂するのは目に見えているので口には出さない。

「わかった。コレが終わったら行く。五分ほど待ってくれ」
「あぁ……って、そういやお面」
「なんだ」
「アンタ、いつから猫嫌いになったんだ?家の周り、すげー数の猫避け水が置いてあっけど」
「……は?」

猫避け水、とはペットボトルに入れた水を家の周りに置くというやつだろうか。
私は猫を嫌いになった覚えはないし、そんなものを設置した覚えもない。
そしてふと、気づいた。
急に私の下のテルミが静かになったことを。

「そういえば……猫が嫌いだと言っていたな」
「…………」

テルミは黙ったままだが背中に当てた手を通して判る心拍数の上昇と発汗が全てを物語っていた。

「悪滅」
「ぎゃーっ!ハクメンちゃん痛い、愛が痛いーっ!!って右腕の関節完全に外れてんですけどー!?」
「次は左腕だ」
「ひぎゃああぁぁっ!!」





いざ逝かん明後日の方向





(お面、ソレどうすんだ?)
(明日は燃えるゴミの日だからな)
(あぁ、なる程)





title by 剥製は射.精する

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