文
□納得いかない
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とてつもなく嫌なことを聞いてしまって、それまでなんとなく、いや、確実と言ってもいいほどの期待をしていた俺はこの上ない絶望感に襲われた。
だけどまだ信じられない。信じられるわけがない。
とりあえずどこかで休もうと思い、しぜんこうえんへと足を進めた。
あそこならゆっくりと考えられるだろう。ベンチもあるし。
「あ」
しぜんこうえんに着きベンチを見てみると、なんと意外なことにシルバーが座っているではないか。何やってんだろ。ていうか、シルバーしぜんこうえん似合わねえな。
驚いて立ち尽くしていると、シルバーがこちらに気づいたらしく相変わらずの悪い目付きでじっと見てきた。端から見れば睨んでいるようにも見えるだろう。
そこで俺はハッとする。今はボールを持っていない。勝負を挑まれたらどうしようかと頭を悩ませていると、シルバーがゆっくりと口を開いた。
「…お前なんでこんなとこにいんだよ」
「へ?…あ、いや、シルバーこそ何やってんだよ」
「………」
バトルの申し込みではなかったためホッとして、シルバーの問いかけに俺も問い返す。
そして会話はあっさりと終わってしまった。
「えと…隣いい?」
「………」
口では何も言わなかったが、シルバーは無言で隣にスペースをつくってくれた。
俺はそちらに向かいゆっくりと腰をおろす。
すると突然グリーンさんの顔が頭に浮かび、自然と口からため息がもれた。
「何かあったのか」
柄にもなくシルバーが心配してくれたものだから驚いて目を見開く。すると「なんだよ」と不機嫌そうな声で言われ俺は「いや…」と言葉を濁した。
「なんかさあ…レッドさんがグリーンさんに告ったみたいなんだよ」
「………」
「それでグリーンさんなんて返事したと思う?"俺も"っつったんだよ。俺のことが好きなくせに」
シルバーは黙って話を聞いてくれた。
俺は話しているうちにだんだんグリーンさんに腹がたってきて、半場怒鳴るようにして話を続けた。
「レッドさんはただのライバルで幼馴染みだって言ってたのに。それ以上には見たことない、考えたこともないって!なのにどうして!」
「おい」
「俺は信じない。グリーンさんは俺が好きなんだ俺だけを愛してるんだレッドさんなんて本当は、」
「ゴールド!」
シルバーが俺の両肩を掴みゆさゆさと揺さぶってきた。
もはや光など宿していない濁った瞳で、珍しく哀しそうな表情をした目の前の相手を見つめる。
「俺は…」
シルバーは言いにくそうに小さな声で続けた。
「俺はグリーンさんは本当にレッドさんのことが好きなんだと思う」
「………」
「お前グリーンさんのレッドさんに向ける笑顔見たことあるのかよ」
「………」
確かに見たことはなかった。けれど見なくとも俺にはそれに勝る自信が満ち溢れていたのだ。
それなのに、
「お前はただの勘違い野郎だ。いい加減事実を受け止めろ」
違う。違う違う違う違う!
俺は勘違いなんてしていない!俺は間違ってなんかいない!お前まで何言ってんだよ。
「お前はふられたんだ」
「違う」
「グリーンさんはレッドさんを必要としている」
「黙れ」
「お前は必要とされてない」
「っ!」
俺は気づいたらシルバーの頬に平手を打っていた。
ぶたれた頬を擦りながら彼は強く真っ直ぐな眼差しで俺に無言の圧力をかけてくる。
「俺はそんなこと信じねえ!グリーンさんは俺が好きなんだ!」
そう吐き捨てた後勢いよく立ち上がり、シルバーに背を向けた俺はその場から逃げるようにしてあてもなく走った。
そしてエンジュについた頃、ポケットのポケギアが鳴った。
…グリーンさんからだ。
「………」
一瞬出ようかとも思ったのだが、あいにく今は笑えそうない。
鳴り続けるポケギアを再度ポケットに戻し、とりあえず自宅に帰ろうと思った俺はワカバまでの長い道のりを思い浮かべただただ深いため息をつくのだった。
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