文
□似て非なる人物
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シロガネやまから下山して、久しぶりにグリーンにでも会いに行こうかと僕はリザードンに跨がった。
行き先はトキワ…あ、やっぱりニビにしようかな。久しぶりに森を通ってトキワに行くとしよう。
飛んでいるうちに気温が高くなっていくのがわかる。やっぱりカントーは暖かいなあ。
ニビに着いて、リザードンにお礼を言ってからボールに戻す。
カントーの空気は久しぶり。グリーンにも早く会いたい。
僕は少しだけウキウキしながらトキワの森を目指して歩きはじめた。
森の入り口まで来て僕は少し休憩しようと思い、ふと目に入ったベンチに腰かけた。
そういえばグリーンに今日行くって伝えてなかったけど、…まあ大丈夫か。
あ、ゴールドが来てたらどうしよう。…追い出せばいいか。
色々と考えを巡らせていると、隣に誰か座ったようでベンチがギシリと音をたてる。
別に興味もなかったが、とりあえずどんな人だろうかと目だけ動かし相手を見た。
赤い帽子に赤いトレーナー。僕と格好がそっくりだ。
誰だろう。この辺りじゃ見ない顔だな。(と言ってもシロガネやまにずっといたからわかるはずもないのだけれど)
「あーあ…グリーンとはぐれちゃった…」
隣の人物から発せられた言葉に僕は目をむく。
今なんて?グリーン?
僕の視線に気づいたのだろう、赤いトレーナーの男が不思議そうに話しかけてきた。
「あの、…俺の顔になんかついてます?」
「………」
喋らない僕に気を悪くしたのか、そいつは「もう」と眉間に皺を寄せる。
それから正面に向き直り、再びグリーンの名を口にした。
「グリーンのやつ、俺をおいて行きやがって」
「…君、グリーンのなに」
「えっ」
突然喋った僕に驚いたのか、それとも僕の問いかけに驚いたのかはわからないけど、そいつは目を丸くした後呟くように、そして少し照れるように僕に言った。
「えと…一応、恋人…ですけど。それがどうかしました?」
「………」
おかしい。グリーンは浮気していたのだろうか…
でも彼は曲がったことが大嫌いだ、浮気などするはずがない。
再び黙りこんだ僕に、今度はそいつから話しかけてきた。
「グリーンと知り合いですか?」
「…グリーンは僕の恋人だけど」
そいつは信じられないというような表情で僕を見てきた。いや、僕だってなにがなんだかわかんないよ。
「…あ、えっと…俺、レッドっていいます。あなたは…」
とりあえずというように名前を名乗ったそいつ。
レッドって…僕もレッドなんだけど。
「…僕もレッドだよ」
「ふぅん、レッドさん…え、レッドさん?」
「………」
こんなことがあり得るだろうか。格好も同じ。名前も同じ。恋人までもが同じ名前だなんて…
「…君の言うグリーンってどんな人?」
「へ?あ、えっと…」
僕の目の前のレッドが言うには、そのグリーンは"クールで大人っぽくてなんでもできる"らしい。
良かった、どうやら別人みたいだ。
「じゃあ、あなたの言うグリーンはどんな人なんですか?」
「…うるさくて意地っ張りでドジ」
「そ、そうなんですか…」
目の前のレッドは「子供っぽいんですね」と苦笑する。
そうだよ、僕のグリーンは子供っぽい。
それにクールでもなければおとなしさの欠片もない。
だけど、人一倍思いやりがあって誰よりも僕の身を心配してくれる。
僕がいないと生きていけないくらい寂しがり屋だし、たまにムリしてシロガネやまに来たりするけど僕は正直嬉しいし、もう来ないでなんて言えない。ああ、やっぱり僕はこんなにもグリーンのことを愛してるんだなって改めて実感した。
さて、いよいよグリーンに会いたくなってきた僕は重い腰を上げ、森へと足を進める。
後ろからさよなら、と声がしたので僕は振り返らずに右手だけ軽く上げ、もう一人の僕に後ろ姿でさよならと伝えた。
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