文
□わかっているけど
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あの人の背中はすごく寂しそうで、それでも俺に心配をかけないようにと時折見せる笑顔はやっぱりどこか悲しみを帯びていたんだ。
そしてグレンではじめて遭遇した時、心の底から思った。
側にいて守ってあげたい。彼の心にできた傷を、俺が癒してあげたい、と。
それなのに彼はいつもレッドレッドレッドレッドレッド。レッドさんのことばかり。
でも、彼はレッドさんのことを恋愛対象として見ているわけじゃないから俺もなんとも言えない。
それに、無意識なんだと思う。
「お前、昔のレッドに似てるな。まぁあいつみたいに無口じゃないけど」
ほらはじまった。
俺は今グリーンさんとトキワジムのジムリーダー控え室にいた。
関係者以外立ち入り禁止のこの場所に俺がいるということに少し感激。
その上、ジムトレーナーでさえあまり入室を許されないという。
…期待しちゃうじゃないですか全く…。
「グリーンさんの言うレッドさんって、すごく無口な方なんですね」
ソファーの背もたれに重心をかけながら言うと、隣に座っているグリーンさんは「はは、そうなんだよ」と軽く笑った。
「普段すっげぇ無口なくせに、たまによく喋ったりするんだ。それにピカチュウばかでさ…ピカチュウのことなら何時間でも熱弁できんだぜ。あいつ」
…なのに、行方不明になっちまうなんて、と付け足したグリーンさんの表情からはいつの間にか笑顔が消えていた。
ああ、これだからレッドさんの話をするのは嫌なんだ。
グリーンさんを守ってあげたいのに、俺じゃ、ダメなんだって言われている気がして。
すごく、胸が苦しくなる…。
俺のこの気持ちを、グリーンさんのことを好きな気持ちを伝えられたら楽になれるんだと思うのだけれど、彼に嫌われることを恐れている俺にはそんなことできっこない。
男が男に恋愛感情を持つ?そんなのバカげてる。そう言って彼は笑うだろう。
それでも、実際にはグリーンさんのことが好きなのだ。自分でもおかしいと思う。非常識だと、思ってる…。
グリーンさんの存在が頭の中で大きくなってから、女の愛し方を忘れてしまった。
もう、あなたしか見えないんです。あなたじゃなきゃ、ダメなんですよ。俺。
「…グリーンさん、今から俺が言うことを真面目に聞いてください」
ソファーから腰を上げ、グリーンさんの正面に座る。床に座っているから、俺は自然とグリーンさんを見上げる形になった。
とうとう言うのか。言ってしまうのか。
返事をもらった後、俺は辛くても泣かないように、ちゃんと笑えるように、はじめての殿堂入りの瞬間を思い出すことにした。あと、ちょっとした冗談も言おうかな。急いで考えよう。
(だって、答えはもうわかっているのだから)
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