文
□今も言えないまま
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昔からグリーンはイベントごとが大好きだった。
だから年が変わった今、グリーンから何も連絡がこないことを不思議に思った僕は一旦マサラに戻ることを決意した。
日が変わったばかりで辺りは暗いし良い子は寝ている時間なのだけれど、本来のグリーンなら日が変わってすぐに「あけましておめでとう」という連絡をいつもよこしてくれていたのだ。
話は変わって、
僕はグリーンのことが好きだ。
幼馴染みやライバルとしてではなく、自分は彼に恋い焦がれているのだ。
それに気づいたのは、丁度グリーンからチャンピオンの座を奪ったあの時だった。
なぜその時に気づいたのかはわからない。だけど、僕がすぐに頂点の座をおりてシロガネやまで強いトレーナーを待ち続けている間も、日に日に気持ちは大きくなっていった。
そうだ、マサラに戻るならこの際だからグリーンに僕の気持ちを伝えておこう。
どんな反応するかな。
ばかにされるかな。恥ずかしがるかな。喜ぶ…かな。
あ、それよりも僕が帰ってきたことに驚くんだろうな。
徐々に楽しみになってきた僕は、肩にのっているピカチュウに「帰ろうか」と呟いてリザードンの入っている腰のボールに手を伸ばした。
マサラの懐かしい地を踏み、リザードンをボールに戻して僕は足早にグリーンの家へ向かった。
僕の家にも帰らないといけないのだけれど、今はそんなこと頭にない。
グリーンの家の前に立ってインターホンを押す。するとしばらくしてからグリーンのお姉さんのナナミさんの声が聞こえた。
「どちら様ですか?」
「…レッドです」
ナナミさんはドアを開けて僕を見た途端、驚いたように口に手をあてる。
「グリーン…いますか?」
「えっと…ごめんね、今はいないの」
「………」
どうやらグリーンは今いないらしい。
「…どこにいるかわかりませんか?」
「多分、トキワジムにいると思うんだけど…」
「ありがとうございます」
僕は軽くお辞儀をしてナナミさんに背を向けた。
そうか。そういえばグリーンは今トキワジムのジムリーダーなんだった。
少し眠そうなピカチュウの頭をぽんぽんと撫で、僕はトキワジムへと足を進めた
さすがにこの時間にもなると、ジムトレーナーも皆帰っているようだ。
だけど、奥の部屋の電気がついているということは、まだ人がいるということ。きっとグリーンだろう。
そこに行ってみると、扉に『ジムリーダー控え室(関係者以外入ってくんな)』と書かれた紙が張ってあった。
その見覚えのある文字が、今の僕にはとても愛しく思える。
相変わらず汚い字。口調も全然変わってない。
そんな些細なことがすごく嬉しくてふっと笑みがこぼれた。
その時、扉の向こうから微かに声が聞こえて僕は息を潜める。
「…っふ、んん…」
妙にくぐもった声、でも僕にはわかる。グリーンの声だ。
僕はすぐに様子が変だと気づき、勢いよく扉を開けた。
「……グリーン…」
「レッ、ド…?!」
「…誰っすか?いいからグリーンさん、続けましょうよ」
「っん…、は、やめ…ゴールド…っ」
服の乱れたグリーンに、年下であろう金色の目をした男が覆い被さって何度も何度も深く唇を合わせている。
名はゴールドというらしい。
どうやら、僕の初恋は失恋に終わりそうだ。
うん、そりゃ連絡もできないよね。こんなことをしているのだから。
僕はすぐに走ってジムをとびだした。
途中、帽子が飛んでいってしまったけどそんなことどうでもいい。
するといつの間にか外では雨が降っていたようで、服が水分を含み肌に冷たい感覚が広がった。
こんな季節なのに、カントーでは雪は降らないのか。
ああ、でも雨で良かったかもしれない。
いくら涙を流したって、雨と混ざってぐちゃぐちゃになってわからなくなるから。
僕は自分の家の前で足を止めた。
ピカチュウが心配そうに「ぴー…」と僕を覗きこむ。
大丈夫だよ。僕なら、大丈夫。
…はは、ばかみたい。本当は全然大丈夫なんかじゃないのに。
僕は扉をがちゃっと開け、中にいたお母さんに思いきり抱きつき久しぶりに声をあげて泣いた。
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まさかのですね。
シリアスって難しい;;
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