□決心
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今日姉さんは友達の家に泊まるらしい。
昼間から楽しみにしていて、つられて俺まで嬉しい気分になった。

日も沈みはじめて、姉さんがタオルやパジャマなどを入れたカバンを持って玄関に向かった。
俺は見送ろうと思い一緒についていく。


「あ、今日はお買い物に行けなかったの。ごめんね。だから、このお金でなにか買って食べてね」


そう言って姉さんは俺に二千円を渡した。
そんなの気にしなくていいのに。


「わかった」

「それじゃあ行ってくるわね」

「行ってらっしゃい」


バタンとドアが閉まって部屋に静寂が訪れる。
時刻はまだ六時。さて、買い物に行こうかと俺は二階に上着を取りに上がった。

ハンガーにかけてある上着を手に取ると、突然インターホンが鳴ったので姉さんが忘れものでもしたのかと思い急いで玄関へと向かった。

姉さんだと思いこんでいた俺は誰かも確認せずにそのままドアを開ける。
すると、そこには意外すぎる人物が立っており俺は凍りつくかの如く固まった。


「え、…」

「………」



なんで、レッドが…



「…ねえ、せっかく僕が帰ってきたのに"おかえり"のひとつもないわけ?」

「あ、お…おかえり」

「ただいま」


ただいまじゃねえよなんでいんだよ。
俺がシロガネやまに会いに行ってもお前から来ることなんて一度もなかったのに。

そのまま固まっていると、レッドが俺の手に持っている上着を見て「どっかに行くとこだったの?」と問いかけてきた。


「あぁ…ちょっとタマムシにな」

「…ふぅん」


するとレッドは手を腰にあてて僕も行こうかな、と言い出した。珍しい。昔はどこに行くのも面倒くさいと言っていつも俺の家でゲームをしていたのに。
今でもそうだ。シロガネやまからめったにおりてきやしない。

きょとんとしていると、レッドが急かすように俺の腕を引っ張って家から引きずりだしてきた。


「それじゃあ行こうか」


そう言ってレッドは俺の腕を掴んだままトキワ方面に向かって歩きだす。
いや、歩いて行くのかよ遠すぎんだろ。

俺はとりあえずレッドに引っ張られている方と反対の手に持っている上着を羽織った。
こんなに寒いのに相変わらずレッドは今日も半袖だ。頭いかれてんじゃねーの。


「……なに」

「なんでも。つか歩いて行くのかよ」

「…悪い?」

「別に。でも遠くね?」

「………」


するとレッドがいきなり立ち止まったので俺はそのまま止まれずにレッドにぶつかった。


「ってぇな…いきなり止まんなよ」


ぶつくさ言う俺のことは気にもとめずにレッドは腰のボールからリザードンを出す。


「タマムシまで頼むよ」


リザードンは力強く頷き、俺らが乗りやすいように体を縮めてくれた。
そのままレッドに腕を引かれ俺達はリザードンの背中に乗った。


「…おいレッド、いつまで腕掴んでんだよ。そろそろ離せ」

「………」


シカトかよ。

少しムッとするも、まあいつものことなので俺ははあ、とため息をついてその場をやり過ごした。

そのままリザードンに乗ってタマムシに向かう。
その途中、ヤマブキのシルフカンパニーが目に入った途端レッドが表情を変えた。少しの変化だが、長い付き合いの俺にはわかる。

きっとロケット団のことを思い出してるんだ。

一度はレッドが壊滅させたものの、三年という月日をかけてまた復活したのだ。レッドからしてみれば後味が悪くて仕方ないのだろう。


そんなことを考えているとあっという間にタマムシに着いた。
もうレッドは俺の腕を掴んでいない。

地面に着地して、レッドはリザードンに何かぼそぼそと呟いてからボールに戻した。多分お礼を言ったんだと思う。

レッドがボールを腰に戻したのを確認してから、俺達はタマムシデパートの食品売り場に向かった。









「ねぇグリーン、カニ買おうよカニ」

「はあ?ムリに決まってんだろ!今日は二千円しか持ってきてねえんだ」

「………」


あーあ、レッドが拗ねた。まあ今回俺は悪くないからいいんだけど。ていうか、こんくらいで拗ねんなよな。ちっせえやつ。


「レッド、ちょっと安そうな野菜探してこい」

「命令しないでよ」

「探してきてください」

「わかった」

「俺肉売り場にいるかんな」

「………」


レッドは素直に野菜売り場に向かう。
…いくらレッドでもガキじゃあるまいし迷子にはならないよな。


少し不安だが俺はレッドを信じて野菜売り場と正反対の肉売り場へと向かう。
その時の時刻が、丁度七時を回ったところだった。









「レッドのやつ遅えな…」


俺はもうとっくに肉を選んでおとなしく肉売り場で待っているというのに、レッドがいつまで経っても来ない。
時計を見ると、もう七時半になっていた。


嫌な予感がする。



すると、突然ピンポンパンポンという電子音とともに店内に放送がかかった。


『迷子のお知らせをいたします。茶髪で緑の目をしたマサラタウンのグリーン君。レッド君が待っています。至急サービスカウンターまで―…』




…最悪だ。









「あ、グリーン」

「あ、グリーン、じゃねーよ!なに迷子になってんだばか!」

「僕じゃないよ。グリーンが迷子になったんでしょ」

「はあ?!俺はちゃんと肉売り場で待っ…、もういいや。で、なんか良さそうな野菜はあったのか?」

「………」


レッドは何も言わずに俺になにかを渡してきた。


レッドが渡してきたそれは、袋に余すところなくうどんの汁が入れられているものだった。


「…なんだこれ。野菜は?」

「……。…ねえ見てグリーン、これ空気ないよ。全部汁。すごいね。どうやって入れたんだろうね」

「いや、だから野菜…、うんわかった。もう一生お前と買い物来ないことにするわ」









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すみません調子乗りました。
しかもグリーンの目の色緑じゃないですしね、公式では;
この後グリーンは二千円を家に忘れていて結局なにも買えずに帰ったというオチ



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