文
□突然の
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俺は泣き顔を見られないようにしてリーグから飛び出した。
後ろからレッドの声がするけど聞こえないふりをしておく。今はそれどころじゃない。
やっとの思いでチャンピオンになれたというのに。
それなのに、…
ああくそ、涙がとまんねえ。
ピジョットに乗ってマサラに直行。
俺の家の前で降りて、ピジョットをボールに戻した。
ドアノブをひねって家の中に入ると、姉さんが玄関に立っていて「おかえり」と言ってきれいな淡い緑色のハンカチを俺に渡してくれた。
おじいちゃんから聞いたのだろうか、俺が泣きながら家に向かっている、と。
不意にふわっとシャンプーの香りがして、気がつけば俺は姉さんに抱きしめられていた。
「よく頑張ったわね、グリーン」
そう言われた瞬間、俺の目からは感情が爆発したかのように涙が溢れだした。
昔から姉さんは優しかった。
俺がレッドと喧嘩して顔にたくさん傷をつけて帰った時だって、こうやって俺を抱きしめてくれた。
おじいちゃんに怒られた時だって、自分で石につまづいてこけた時だって、全部全部自分が悪いのに、姉さんはいつも俺を抱きしめて頭を撫でてくれた。
俺は旅でポケモンを捕まえたこと、育てたこと、勝負に勝ったこと、負けたこと、レッドと勝負したこと、…
これまでのことを全て姉さんに話した。
姉さんは一瞬たりともよそ見せず、俺の話に何回も相づちうちながら聞いてくれた。
次第に眠くなってきて、俺は「寝る」と一言だけ言って二階に上がろうと立ち上がったら、姉さんが「おやすみ」と言って微笑んだ。俺は今までに何万回その笑顔に救われたのだろう。
俺の部屋に入りガチャ、とドアを閉める。
ああ、今日は色々あったな、と頭の中で思いながら倒れ込むようにしてベッドに寝転んだ。
正直、もう体力が限界なのだろう。
次レッドに会った時はどんな顔をして会えばいいのか、とか、何を話せばいいのか、とか…
考えたいことは山ほどあったのだけれど、次第に瞼が落ちてきて俺は夢の中へ引き込まれてていった。
あ、俺掛け布団の上で寝てる…
…まあいいか。
次の日の朝になり、俺は朝日に起こされた。
ああくそ、眩し…
そういえば、布団の上で寝ていたはずなのにあまり寒さを感じない…。
上半身を起こしてみるとパサ、と見覚えのある赤いトレーナーが太股に落ちた。
このトレーナーは…
「………」
ふと顔を右に向けると、今一番会いたくなかった人物が目に入った。
「レッ、ド…」
彼は帽子を手に持って、俺の寝ていたベッドにもたれるようにして静かに寝息をたてている。
ていうか、なんでいんだよ。
「おい」
「………」
「おいレッド」
「……ん…」
なかなか起きないレッドに俺は痺れを切らして、ベッドから降り朝方にも関わらず大声を上げながら彼を揺さぶった。
「起きろレッド!」
「…ん、なに…」
「なにじゃねえよ。なんでお前俺の部屋にいんだ。不法侵入で訴えるぞ」
レッドは心底面倒くさそうに瞼を上げ俺を見る。
俺の方が面倒くせえよ。なんだよこの状況。
「…グリーンに会いにきた」
「は?なんだよそれ。俺は会いたくなかったっつーの。さっさと帰れ」
「いやだ」
なんなんだこいつ。
意味がわからないというように何度も首を傾げていると、レッドは手に持っていた帽子を床に置き俺をじっと見つめてきた。
「な、なんだよ」
俺は気まずくなりレッドから視線を外す。
するとレッドはいきなり俺の腕を引っ張ってきた。俺はバランスを崩し抱きつくような形でレッドに持たれかかる。
「なにす…、」
「僕、グリーンのことが好きなんだ」
…あまりにも突然すぎて、俺は言葉がでなかった。
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最後ものすごくやっつけな感じが申し訳ないです;
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