ごちゃ混ぜ

□いつかまた、その時は笑顔で
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──快援隊、船内。

「おんし、名をば名乗るぜよ」

まだ、青二才であった万斉に、辰馬が訊く。

「……主に名乗るような名など、持ち合わせてはおらぬ。離さぬか!」

破壊締めにされながら、辰馬の手の中にある己のエモノを取り返そうと、必死に暴れる。

「まだ若いのー、おんし。そんな歳から人斬りたぁ、苦労しとるんじゃのぅ」

「うるさいっ! 主に何がわかるでござるか! 知ったような口をたたくな」

まだ、サングラスもヘッドホンもしていない万斉──その表情は、酷く険しかった。

「そんな顔ばしちょったら、せっかくの男前が台無しろー」

「主のように、いつも、へらへらと笑っている、頭空者に、顔云々言われたくはない!」

「あっはは〜酷いこと言うのー──もう一度訊くぜゆ。おんし、名は?」

「……名なんか、何になると言うのでござるか。これから斬る主になぞ、教えん」

一向に、名乗らない万斉に、辰馬わニッコリと微笑みかける。
幼い時から、孤独に生き、誰かに微笑みかけられたことなど、なかった万斉は、驚きにもにた感情がこみ上げた。

「名は、おんしが生まれた時から背負う、大切な物じゃ。そしてその、大切なモンば、他人に教えゆる時、おんしの痛みをばともに感じあえる。背負っちょるモンば、共に背負っていけるき」

「──主が、拙者のこの痛みを、分かち合うとでも申すのでござるか? 有り難迷惑な話でござる」

なおも、辰馬の腕からエモノを取り返そうと、抗う万斉。

「……今のおんしにゃ、わしは斬られんぜよ」

「やってみねば、わからぬ」

「名も名乗んようじゃ、わしにば、かなわんち。おんしとわしじゃ、背負ってるもんが違うき。意志の強さが違うんじゃ」

そう言って、真っ直ぐに万斉を見据える、辰馬。
先ほどとはうって変わって、サングラス越しに見える、真面目な瞳……

「……河上……万斉」

「ん??」

「拙者の名は、河上万斉でござる! 」

「河上……万斉がか」

そう言うと、辰馬は、万斉を離し、手に持っていたエモノを返す。
一歩間違えば、己が斬られる、この危険な行為に万斉は、驚きを隠せなかった。

「……主、何を」

「う〜……おんしが、笑顔で……沢山の仲間ば持ち、仲間と共に重き荷を背負えるほどにばなれた時──そしたら、おんしと死合うてやるきに……万斉君」

──見た目は、ただのチャランポラン。頭の中は空っぽ……端から見れば、そう見える辰馬。
だが、万斉は、聞きほれていた。

──辰馬の魂のリズムに。

──辰馬の生き様に。

「──その言葉、忘れられぬなよ? 坂本殿」

「忘れるわけなかぁ〜あははっ」

「………今日は、帰るでござる」

そう言い、快援隊の船から出て行く万斉。
その後ろ姿を見ながら、ほくそ笑む、辰馬が

いつかまた、その時は笑顔

と、呟くのが聞こえたか、聞こえなかったかは、わからない。

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