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□不愉快な赤
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ガタッと扉の開く音に目を覚ませば、返り血で赤く染まる阿伏兎が怪訝そうにこちらを見ていた。
「あ、阿伏兎おかえり」
「ただいま……で、なんで人の部屋のベッドで寝てるんで?」
素直にただいまと返してくれたことに頬を緩めて笑っていれば、阿伏兎から当たり前の質問。
「なんでって、阿伏兎の匂いがするベッドで寝て何が悪いのさ」
だから俺も、当たり前のように返す。
「自室で寝ろ、すっとこどっこいが。……起こしたんなら、悪かったな」
睨むように俺を見てから、眠そうに目をしばしばさせた様子に小さく付け足される言葉。
「だいじょうぶ、阿伏兎が帰ってきたら起きようと思ってたから……それ、返り血だけ?」
血みどろな日除けマントを脱ぎ捨てながら、内面にまで付着する赤いソレを疑問に思って阿伏兎に問い掛けたら、わかりやすくも黙りこくる……。
「怪我したの? 阿伏兎にしては珍しいね……相手に夜兎でもいたのかい?」
「ああ、そんなもんだ。夜兎のガキが一人、その星に居てな……小さくても夜兎は夜兎。仕事してたら血の臭いを察して間合いに飛び込んできてなぁ、何とか相手の攻撃に当たらないようにガキかばってこの様だ」
上着を脱いで露わになった横腹の傷を見つつ苦笑いして話すのを横目に、面白くなさそうに再びベッドに寝ころんだ俺を不思議に思ったのか阿伏兎が近寄って来た。
「団長? どうかしたか?」
「……よね」
「あ? よく聞こえないんだが」
「……嫉妬しちゃうよね。阿伏兎が作った傷が俺以外の誰かを庇ってできた傷なんてさ」
「嫉妬って、アンタな「阿伏兎の身体は、肌から血まで全部全部俺のだから。次からは心得ておいてよね?」
「……承知しましたよ、団長様」
不愉快な赤
傷から流れた血が俺の為じゃないなんて、許せないよ……そう言って噛まれた首筋から流れた血は、跡形なく神威の胃に消えていった。