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□君と二人で寂れた神社
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「もーいーくつねーるーとー……む?」

指名手配犯 桂小太郎
正月の夜もあまり変装をすることなく妙にはまり役なちょび髭のみで夜道を歩き回っていた。
そうして小さな神社を通り過ぎようとすると人影を見つけ足を止めた

それが見知った顔だと分かると小さく息を吐き歩み寄る。

賽銭箱の前、石段に座る彼の隣に無言で座り真ん中にドンと日本酒の瓶を置いた



「か、つら…?」



それは桂のかつての仲間であり
過激攘夷派で同じく指名手配犯である高杉晋作だった。

「何だ。お前仲間たちと一緒ではないのか?」

正月にこんな場所で何をしている、という意味を込めて尋ねるとクスリと軽く笑い呟いた

「今頃新年祝いで大いに騒いでるだろうよ。面倒で抜けてきたがな」

ふ、と桂も笑みを浮かべればお前はどうしたんだ?と問う


「実はな、聞いてくれ。」


エリザベスと一緒に年を越そうと思っていたのだが大晦日に「三が日過ぎたら帰る。よいお年を」と書かれた看板を残して姿を消してしまったのだ。
それを銀時に話したらあいつには家庭とか色々あんだから放っておけとか訳の分からないこと言い出すし、まあそういうわけだから一緒に年を越そうではないかと誘えばああ俺今年はこいつらガキと志村家でご馳走なっから。真選組のゴリラも来ちまうかもしれねえからお前来んな。巻き込まれる身になれ。と突き放すのだ、酷いと思わんか?なあ高杉

弾丸トークとはまさにこの事だろうというように告げ続ければそれをただ呆然と聞いていた高杉がクククと笑いを上げた

「…お前は変わらねーなァ」


そう少し寂しげにも嬉しそうにもとれる声音で呟く高杉に桂は微笑を浮かべて袖元から杯を二つ取り出した。

「お前ェいつもそんなもの持ち歩いてんのか?」
「そうではないさ。独りで飲み明かそうかと思ったのだがいつもエリザベスとだからつい持ってきてしまってな」

一つ杯を高杉に手渡すと瓶を開け傾けた


「正月だ。今宵くらいは立場も過去も無しにして共に呑まないか」


酒を注ぎ終え笑みを向ければ一瞬驚いたように目を丸くするもふと笑みを浮かべた














「それもいいかもしれねえな」




















「────それでな、俺がかまっ娘クラブで出稼ぎしていた時に運悪く幕府の犬どもが来てしまって、銀時と接待してたんだがあの土方に気づかれてしまったり」
「ああ…鬼の副長さんか」


少し酔いも回り始め自らの世間話なんかも話し始めていた
もう瓶にはそれ程酒も残っていない


「そういやこの間来島が変装だって言って上品な着物羽織って歩き回ってよ、真選組の大将さんと遭遇したらしいがバレなかったみたいだぜ」
「彼女が、か?あの口調は存在を明かしているようなものだと思うのだが」
「口調は武市あたりが特訓してたんじゃねえか?」

「ああ、あのロリータコンプレックスの男か」


クスクスと愉しげな笑いが夜更けの境内に響き渡った
そこには敵も味方の立場もない。同じ攘夷志士でも穏健派と過激派の違い
そして彼らの過去
それらを抜きにしただの男二人の会話だった

ひゅうと寒風が吹き木枯らしが揺れる音が聞こえると少し酔いも醒めてくる
二人の間にも風が吹いたようだった

「──銀時は、どうしている」


不意に口を開いたのは高杉
その問いに真っ直ぐ前を見つめながら言葉を紡いでいく


「楽しそうに笑ってる。失う事も知っていて、また大事なものを抱えて。それでも本当に楽しそうに、毎日……彼奴は彼奴なりに信念を貫いてるよ」

「……坂本は、」

「アイツは宇宙で好きにやってるんだろう」
「夢、だったからな」



穏やかな時間
刀を抜き刃を向け合うことも、敵意を孕んだ視線を向けることもない。
二人がこうやって向き合うのはいつ振りなのだろうかと思う程に────



「あと少しで夜も明けるな」
「……ああ。」
どれほど話したのだろう
隙間を埋めるようにとても濃い時間を過ごしたようだ

「いつかまた、会うことがあったら──」
「そん時は、…」





───刃を向けることになるだろう。



もうじきに夜も明ける。
別れを惜しむように申し訳程度に月が光を放つ。
彼らは杯に最後の酒を注ぎ合った───







君と二人で寂れた神社
(まぼろしのようなよるだった)







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