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□せつな空
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朝、公園。
涼しい風が髪を浚っていく。
「澪ー!」
聞き慣れた声がこちらに近づいて来た。
小ぶりな身体に長い前髪を黄色のカチューシャで後ろに流している我が軽音部の部長…
律だ。
「いやぁ、ごめんごめん。途中マグロを咥えたサザエさんに出会ってさ…。」
「嘘つけ。苦しい言い訳をするな。遅刻は遅刻だ。」
そう言って律の広いおでこにチョップをくらわせる。
そうすると律は涙目で「う〜」と呻きながらその場に座り込み、おでこを擦った。
「よし、行くか!」
と思うと、いきなり立ち上がる。
…あ、そうだった。
今日は律のおじいさんのお墓参りに来たんだった。
何故行くことになったのか。
そう、それは昨日の事。
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放課後の部室。
斜陽が音楽室をオレンジ色に照らす。
相変わらず…というわけでもないが、各自で練習をしていた時。
私と律は一緒にいた。
「澪、あのさー、明日ちょっとついて来て欲しい所があるんだけどー。」
色々な音が溢れる音楽室。
特定の音を聞きづらい状況だったが、私は確かに律の声を聞き取った。
「何処か行きたいところでもあるのか?」
「お化け屋敷。」
「一人で行け。」
「…というのは冗談で…。」
一体なんなんだ。
いちいち私を驚かせるな。
バカ律。
「明日…うちのじいちゃんの命日でさ。お墓参り行きてぇんだけど…ついて来てくんね?」
…律にしては珍しく真面目っぽい話だな。
明日私には予定がない。
という事は、私の答えは是しかない。
例え予定があっても、律を優先するけどな。
「あぁ、いいよ。そういう事なら。」
「じゃあ、朝10時半に公園で。」
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