5万打記念
□視界の端から消えてくれ
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はっきり言って、目障りと言えば目障りな“ソレ”は、日常的な行動で左右に動き、その度に視界に映っては人の気を引いてしまう。
ある意味魅力的で毒物である。現に、フレンは晩御飯を美味しそうに頬張っているユーリを目の前に葛藤していた。野宿の準備をして、みんなで鍋を囲みながら食べる食事は、いつもなら美味しいと思えるが今は違う。
それは普段のユーリからは想像もつかない、頭に付けた長い耳が原因だ。いくらフレンが懇願して頭を下げたってつけてくれないウサミミを、女性陣に迫られただけであっさりと着用したユーリに少々苛立ちと嫉妬を覚えたが、この際どうでもいい。
「ユーリ……かわいい…」
女性陣が食事中にも関わらずベタベタとユーリのウサミミに触れているのに、自分は触れることが許されていない。そもそも触った時点で自分の理性を抑えきれる自信が生憎持ち合わせていない。
ハッと気づくと、今まで鍋を囲んでいた仲間はご飯を食べつくしたのか、フレンの真正面に座っているユーリを取り囲んでいた。女性人ならともかくレイヴンやカロルまでユーリを取り囲んでベタベタ触っている始末。
「ふさふさで気持ちいいです…」
「やっぱ青年は美人だから可愛い物が似合うわ」
「おい…俺は男だ」
「あらそうだったの?だったらしゃべらないと男だって分からないくらいとびっきり可愛いドレスを着せてあげるわ」
「その時はあたしの猫耳を貸してあげる、感謝しなさい」
「いらねぇっての!」
(ユーリ…あんなにべたべた触られて、僕だって触りたいのに…)
見れば見るほど魅力的なのにやはり触ることを禁止されていることに歯痒い。ウサミミを付けたユーリを抱いて、盛りになったウサギのように抱いて、ユーリの中に愛を注いで、ユーリにいっぱい啼いてもらって、それから―――…
「フレン、鼻血出てるよ?」
「えっ!?」
きょとんと目を丸くするカロルがそう教えてくれて慌てて手の甲で鼻を拭うと、下心丸見えの妄想をして興奮しましたとばかりに赤い血が付着した。
「なんじゃ、フレンは皆といながらも思いを寄せる女子のことを考えていたのかの?」
「そんなことは…っ!」
「……」
「な…なんだよ!」
視線が気になり真正面を見ると、仲間に取り囲まれたユーリが何か言いたそうな目でフレンをじっと見る。何かを見透かされているようで、フレンはユーリの態度に喰って掛かると軽く鼻で嘲笑った。
「いや、皆の前で鼻血を垂らすなんて破廉恥な騎士様だなと思いましてね」
「…ごちそうさま。ごめん、僕は先に失礼するよ」
言い訳ができない―――…
そもそも悪いのはユーリだ、と心の中でしか叫べない言葉を呑み込んで、ユーリの言葉には触れずに仲間に愛想笑いを見せるとその場を後にした。