Precious Casket

□伸ばした手の、その先に。
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「本当に何も覚えてねぇんだな。
 オレにコイツをつけたのはお前なんだぜ、五ェ門」

「…………」

五ェ門は科白とその意味が耳から脳に染み込むまで数秒間沈黙し、突然全身の毛を逆立ててソファから飛び上がった。
そのあまりにも激しい反応に、それを見ていた次元までつられてビクッと震えてしまったほどだ。

「せっ、拙者が…お主に、それを…!?」

「あぁ、そうだ。それに言っとくが、キスしたのは首だけじゃねぇからな。
 しつっこいくらい長ぇから、窒息するかと思ったぜ」

「……ッ!」

「まぁ、故意じゃなかったってのは今までの反応でよーくわかったが…
 なら、この部屋で何があったのか全部教えてやるよ。しっかり聞いて心の底から反省しやがれ」



   * * *


――五ェ門がソファの上で目を覚ました、二時間ほど前。


片手に土産の酒を提げた次元は各地に点在するアジトの一つにたどり着くと、小窓から灯りが洩れるドアの前に立っていた。
新しい仕事の話だ、と五ェ門共々ルパンに呼び出されたのだが、その時の次元はちょっとした野暮用を抱えていて合流が遅くなったのだ。

「おいルパン、遅くなって悪かった…な…?」

ドアを開けて踏み込んだ部屋の中は、次元が思わず言葉を失うほどに酷い状態だった。

部屋の中央に設えられたテーブルの上にはすでに飲み尽くされた様々な洋酒の瓶が並び、テーブルを挟んで向かい合ったソファの片方にはアルコールで真っ赤になったルパンが上機嫌で空のグラスをくゆらせている。
その一方、反対側の五ェ門はすでに泥酔しきっているようで、ソファに置かれたクッションに顔を埋めたままピクリとさえ動かない。

「おいおい、人を呼びつけといてなんだよ、このだらしねぇ有り様は」

「お〜、次元ちゃーん。待ってたよぉ〜ん」

ルパンは陽気な声でグラスを掲げてみせたが、かなり酔いが回っているらしく明らかに目の焦点がぼやけている。
テーブルの空瓶には度数の高い酒もちらほら混ざっているから、これを全部喉に流し込んだとしたら酩酊するのも当然だろう。

「おい、しっかりしろよ。オレが来るまでに何やってたんだ、お前ら」

「んー? 理由は忘れっちまったけどよ、お前を待ってる間にな〜んでだか五ェ門と酒の飲み比べ…つまりザル対決をする事になっちゃったワケよ。
 で、お互い一歩も譲らずに熱い勝負が続いてさぁ」

「それで仲良く共倒れかよ。
 アホくせぇ、訊くだけ損したぜ」

とりあえず最低限の状況を把握した次元は、今度は反対側に回り五ェ門の肩に手をかけて揺り起こそうとした。


 

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