Precious Casket
□bleu→noir
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その日も時刻はすでに23時を半分以上過ぎて残りわずかとなっていたが、五ェ門と次元は先程までリビングで軽く酒を酌み交わしていて、
一瓶をすっかり空けたところでようやく寝室へと足を向けていた。
ルパンが次の大仕事の下準備で一週間にわたる単独行動中のため、隠れ家には二人しかおらず、人目も時間も気にすることなく気儘に過ごすことができていたのだ。
次元が自分のベッドに腰かけると、今まで幾度となく繰り返してきた流れで五ェ門がその隣に座り、口づけを交わすために肩を抱こうとしたが、次元は珍しく手をあげてそれを軽く払った。
「――なぁ、五ェ門」
その翳った表情とどこか切なげな声の様子で、リビングにいた時の次元とは何か違うと気づいた五ェ門は、訝しげに眉をひそめたものの静かに次の言葉を待った。
「もう、こんな関係でいるのはやめにしねぇか?」
「…いきなり何の話だ」
今夜は飲み始めからずっと付き合っていたから、次元が酒に溺れて妄言を口にするほど酔っていない事は五ェ門も知っていた。
なによりも五ェ門を真っ直ぐに見つめてくるその瞳が、間違いなく自分の意志だと語っている。
「今聞いたとおりだよ。お前とはもう続けられなくなった…だから終わりにしたいんだ」
唐突すぎる別れ話を次元に切り出されても、五ェ門は心の動きを少しも顔には出さなかった。
けれど、訊きたい事や言いたい事はたくさんあるはずなのに…本当は動揺しているのか、短い質問を返しただけだった。
「…理由はなんだ」
「そんなもん、たくさんあって数えきれねぇよ。
オレの嫌がる事を平気でしやがるし…色々としつっこいし…我儘だし…あぁ、あとすっげぇ焦らすのも腹立つし」
次々と突きつけられる理由にはすべて思い当たる節があるのだろう、五ェ門は反論もせずにただじっと次元の思いの丈を聞いている。
「…とにかく。ずっと我慢してきたが、もうこれ以上は耐えられそうにねぇ」
「では、もう心は決まっているのだな?」
「あぁ」
「そうか…ならば、拙者からはもう何も言うまい」
五ェ門は次元を取り残したまま一人で先に結論づけると、ふい、と身体ごと背を向けてしまった。
「おい、勝手に終わらせるなよ。まだオレの話は終わってねぇぞ」
「……」
「ちゃんと最後まで聞け、五ェ門。オレはお前を――」
無言のまま背を向け続ける五ェ門の肩を掴んで強引に振り向かせると、その目からは大粒の雫が零れていた。
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