Precious Casket

□結局のところ、それが幸せってヤツなんだと思うんだ。オレは。
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ある日の朝。


数日前から珍しく単独の依頼を受けていた次元は、用心棒としての契約を無事全うし、疲れた身体を各地に点在するアジトの一つに寄せて深い眠りについていた。

「……ぅ…」

やがてカーテンの隙間から木漏れ射す光がベッドまで這い寄ってきて、音もなく静かに次元を揺り起こした。

「……ふぁ、あ〜…
 なんだ、もう朝か…いや、今日は『まだ』朝だな…」

眠気たっぷりな目で大きな伸びとあくびをし、もう一眠りしようと窓とは反対側へ寝返りを打つと、
至近距離でじっと自分を見つめてくる五ェ門とばっちり目があった。

「――うぉあああッ!?」

反射的に跳ね起きた次元は驚きにドキドキと弾む胸を寝巻きの上から押さえつけ、涼しい顔で上体を起こした五ェ門に人差し指を突きつけた。

「おっ、オレのベッドでなにしてやがる!」

「おぬしが此度の依頼を終えれば、一番手近なこのアジトで休養を取る事はわかっていたからな。
 寝込みを襲うつもりでこのアジトを訪れたのだが、おぬしの寝顔があまりにも可愛すぎて…見惚れて手を出し倦ねているうちに、拙者まで眠ってしまったのだ」

訊く側がこっ恥ずかしくなるような科白を散りばめながら、淡々と真顔で事実を語られると、次元もそれ以上は怒鳴る気が失せて深いため息を吐いてしまう。

「…そうか。そいつは残念だったな」

ナイトキャップを外した次元が自分の髪をモシャモシャと掻いていると、ふと五ェ門の違和感に気づいた。

「でもお前、一緒に寝てたわりにはしっかり身支度整ってんじゃねぇか」

五ェ門は元々寝癖などつかない方だが、それにしても表情や衣服が寝起きとは思えないほどに爽やかな雰囲気を纏っていて、
どことなくモサッとした寝起き感にあふれる自分とは明らかに違っている。

それを次元に指摘された五ェ門は、これまた淡々と理由を口にした。

「当然だ。早朝に一度目を覚ました後、鍛練と支度を済ませてから戻ってきたのだからな」

「で、わざわざもう一度ベッドに潜り込んで隣に添い寝してたってのか?」

「そうだ」

「…あ、そ…」

ここまで自信たっぷりに言い切られると、次元はもはや嫌味さえ出なくなってしまった。


 

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