タイトル企画
□夜雨
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いつものように合間を見付けたオッパから連絡が入る。
自分も手があいているし、着信を告げるそれを手に持っているのに、通話ボタンを押す勇気は今はなかった。
疑っている訳ではないのだけど。
悲しい真実が、いつかオッパの口から言われてしまうんじゃないかという不安が付き纏う。
着信の途絶えた携帯を両手で握りしめて身体を両腕で抱きしめた。
…温かくない。
オッパじゃないとこんなに冷たくて、寒い。
「ぅ〜…」
泣いたら卑怯だと思うのに、オッパがいない毎日を思い描くだけで生きる価値さえ見失いそう。
声が聴きたい。
ただそれだけで、切れたばかりの相手へかけ直した。
『…+++?』
すぐに聴こえた声に知らず涙が零れる。
『電話出ないから何か用事かと思った。ありがとう、電話返してくれて』
返事をしたいのに声が喉に詰まる。
泣いてるなんて知られたくなくて虚勢を張ろうと。
『…+++?…どうしたの?また風邪ひいちゃった?』
「…っちが」
やっと出た声は、もうごまかせない程涙が滲んでいた。
苦しい。
『+++、なにがあったの』
反対にオッパの声は力強さが増して、心配してくれているのだと分かる。
分かっているのに。
『仕事終わったらすぐ家に行くから待ってて』
その言葉が単純な引き金になった。
「…でも、ユリさんと約束あるんじゃないの…?」
『…+++、なに…』
「最近、遅くなるのってユリさんと逢ってるからでしょ…っ?」
ドラマみたいな台詞、まさか自分が言う場面に出くわすなんて思いもしなかった。
それが余計この事をリアルにさせて、泪がとめどなく零れてくる。
『…今からすぐ行く。家?出てかないでね』
「え、あ。シン…っ」
詰まらせたオッパの声に呼び止めようと思っても手遅れで。
虚しく電子音が規則的に鳴るだけだった。
きっと怒らせてしまった。
自分の言葉を反芻させて、なんて事を言ってしまったんだろうと呆れてしまう。
理由も聞かずただ相手を責めて、まるで子供みたいだ。
「…っな、さい…ごめんなさい、おっぱ…っひ、」
リビングのソファで、オッパが来るまでただ身体を抱きしめて泣いていた。