タイトル企画
□てるてるぼうず
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手に持った鍵を差し込んで、慣れた手つきで施錠を開く。
返事なんて返ってこないのは知っていたから、何も言わず真っ暗な中に靴を脱いだ。
提げていた袋をテーブルに置いて寝室を覗く。
こんもりと盛り上がった布団に、夕方メールした内容を思い出して笑ってしまった。
お昼過ぎ、いつもならメールの一通でも入る携帯は何も知らせていなくて、不思議に思って彼女へと電話を掛けても彼女は出なくて。
首を捻ればすぐ、わざわざメール送信をしてきた彼女からの内容は風邪をひいて声がでないという事だった。
会社も休んだらしく食欲もなく、ただじっとベッドで寝ているらしい。
心配になってもすぐに駆け付けられない事を悔やみながら、メールを返した。
その時に送った『しっかり布団被って温かく』という事を守っているんだろう。
ベッドに腰かけて、寝苦しそうな+++の顔を覗き込む。
汗で張り付いた前髪をはらって額に掌を置けば彼女の瞼がやんわりと開いた。
「よく寝れた?」
「ん…」
眠そうに瞬きを繰り返す+++に笑って、持ってきたタオルで顔の汗を吸い取ってやる。
随分遅い時間に起こしてしまうのは忍びなかったけれど、なんだか気持ちよさそうに瞼を閉じる姿にまぁいいかと解釈する事にした。
「食欲ないかもだけど、薬飲まなきゃいけないから少し食べようね」
ほてって薄いピンク色した頬を撫でれば+++は素直に上半身を起こした。
「リョウクに教えて貰って作ったんだ。少しぬるくなってると思うからそのまま食べよっか」
熱いの苦手だもんね。と笑うと熱で潤んだ瞳がこちらを睨みつけてくる。
とは言っても力が入っていないようで、ただ見詰められているだけみたいだけど。
さっきテーブルに置いた袋を持って今度はベッドサイドに椅子を起き、そこに座る。
容器の蓋を開ければ微かな湯気がのぼった。
スプーンにひとさじ掬って息を吹き掛けて冷ます。
それを口に運べばゆるりと+++の唇が開いた。
小動物みたいに動く口許をじっと見詰めていれば+++の顔が緩んだ。
「おいしーよオッパ」
そう笑う彼女に気分がよくなって、彼女がもういいよと言うまでひたすら食べさせていた。
薬も飲んで、パジャマも着替えベッドに横になった彼女の右手を握り締める。
熱のせいかすぐにうとうとし始めたのをただ見詰めた。
一度落ちた瞼をまた僅かに開いて、こちらを見上げた+++に首を傾げる。
「おっぱは…仕事」
舌足らずな+++に言いたい事を理解して宥めるように頭を撫でた。
「明日遅入りだから平気だよ、ゆっくり寝て」
きっと寂しいだろうに、仕事を心配して強がる彼女がとても可愛い。
すぐに安心しきった顔で眠ってしまった+++の頬に軽いキスを落とした。
「明日元気になってね」
病気になってしまったら、僕が必ずそう祈ってあげるよ。