タイトル企画
□きみ攻略マニュアル
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「+++、これあげる」
廊下を歩いていると前からやってきたユノが小さな紙袋を私に差し出した。
「ありがとう…今日はなに?」
「今日はピアス。+++に似合いそうだったから」
それだけ。と白い歯を見せて笑って、ユノはさっさと来た道を帰っていく。
突然毎日プレゼントを渡してくるようになった彼は何を考えているのか、毎回違うものを用意しては私に渡してすぐに帰っていくことを繰り返していた。
その行動の意図は未だに理解できなくて、ただ彼からの気持ちを無視する事も出来ず受け取るだけ。
だからユノから貰ったものをまだあけてもいないし、自宅で眠ったままだった。
「…昨日は、なんだったっけ…」
ピアスだと言った小さな紙袋を覗き見て、昨日のプレゼントを思い出す。
そうだ、確か
「ワンピース、だった」
また私に似合いそうだったから。と有名なブランドの紙袋を持ってきてくれた。
出掛け先でそんなに私の事ばかり気にしていてもいいのかと、どこかこそばゆい気持ちになる。
次の日、また事務所の中を移動していれば後ろからユノに声を掛けられた。
その手にはやっぱり有名ブランドの紙袋。
昨日よりは大きめな。
「今日もプレゼントだよ」
やっぱり白い歯を出して笑ったユノに、今日も深く頭を下げてお礼を述べた。
「、それでね」
いつもはそれだけで帰ってしまうユノが、今日初めて少し苦そうな難しい表情を浮かべる。
何事かとそのまま見上げていれば微かな声で唸っていた。
「…デートしよ」
「えっ」
「えって…いや?」
子犬みたいな眼をするもんだから、とっさに首を横に振る。
それを見たユノは満足そうに眼を細めて、勝手に日にちを決めると去っていってしまった。
取り残された私は戸惑いを隠せないで、気付けば約束の日を迎えてしまう。
まさかのユノとのデート。
何を着て行けばいいか決めあぐねて、ベッドへと倒れ込む。
ふと眼を開けた視線の先に、ブランドの紙袋が眼に入った。
そういえばユノから貰ったワンピースがあった。と身体を起こしてその紙袋からワンピースを取り出す。
着て行けば喜んでくれるかな、なんていそいそと袖を通した。
それからワンピースに似合う小物を考えては、ユノから貰ったサンダル。
ユノから貰ったカーディガン。
ユノから貰ったカバン。
ユノから貰ったピアス。
全てを身に纏って鏡の前に立てば言葉を失ってしまった。
頭のてっぺんから足先まで全てがユノに貰ったもので出来上がってしまったから。
毎日欠かさず貰っていたものなのに全く気付かない自分もどうかしてる。
気恥ずかしくて、でも凄く嬉しい気持ちもあって、鏡の中に居る自分に笑ってしまった。
本当に私に似合っているのかな。
逢った時に似合ってると言ってくれたら、嬉しい。