タイトル企画2

□カクテルカラーはレインボー
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液晶画面とかれこれ数十分はにらめっこをしている気がする。

何度も何度も同じ文章を読み返して、矢印のボタンをタップしたところで、数秒もせずに戻るボタンをまたタップした。

無意識に呼吸まで止めていたようで、見慣れたホーム画面に戻ったところで思いっきり空気を吐き出した。

メールが届いたのは既に一時間も前のこと。

差出人は最近呼び名の変わった彼。

甘さと共に始まった恋は、メールひとつすらままならない。

指の腹が白む程、力いっぱい握りしめた携帯は自分の熱か、それとも稼働熱か。

文面から滲み出る彼の優しい声音が知らず知らず頭でリフレインして、今日も熱に浮わついている。

はっきりと載せられた単語が思考をおかしくしているのだ。

『デートにいきませんか?』

それだけの単語に、何倍もの疑問を投げ返したい。

なぜデートなのか。

そしてなんで誘う相手が私なのか。

変換ミスですか。

そこまで巡りめぐって、はたと受信画面を見落とす。

疑問は尽きないけれど、けれど自分の知る限りあの人は冗談でこんな単語を使うだろうかと。

すぐにでも冷や汗が滲み出そうな手のひらを滑らせて、精一杯の返事を打ち始めた。






「おはよう」

「お、はようございます…」

会社の外、テレビの中でもない世の中に紛れ込む姿におずおずと声を掛けると、先に待っていたシンドンくんは手に持っていた書籍を閉じた。

「待たせてしまいましたか?」

「ううん、大丈夫。デート、楽しみだったからね」

ふわりと微笑む可愛い顔にほんの少し見惚れて、微かに視線をずらす。

1日、もつだろうか。

そんな不安が過る。

「今日は+++ちゃんを知りたくて誘ったんだ」

予想だにしない言葉に見上げた首を捻れば、彼は楽しそうに口許を緩めた。

それも、かわいい、なんて。

「年上の男性に失礼、だ」

「え?」

独り言を言ったつもりが彼の耳は掬いとってしまったようで。

再び下手な言い訳も出来ない自分は掌で口許を押さえてみるけれど、いとも簡単に剥がされてしまった。

「そんな気はしてたけど、+++ちゃんはやっぱり年下なの?」

まっすぐ視線を合わせて問うシンドンくんに何度か頷くと今度は斜め上を見ながら思案顔。

「やっぱり呼び名、変えたい」

その言葉に少し前、変わった呼び方が胸をしめつける。

やっぱり慣れ慣れしかったのかもしれない。

彼は年上の芸能人。

私はただの事務所の社員。

剥がされたままの手首から力が抜けて、腕を離そうとすると今度は手を繋ぐように掌同士が重なった。

「ドンヒオッパ、って呼んで」

重なった熱と、耳を掠めた普段より低めの声。

自分の思考とは真反対の、ことば。

「…お…っぱ?」

「うん。本名で、呼んで」

僅かに質問の意図とは違う返答だけれど、どちらにせよ恥ずかしさが競り上がってくる理由。

少し前の自分が不思議。

どうして、隣に座って、名前を呼んで、頭に優しい掌が触れて。

それでどうして、好きだと自覚しなかったのか。

「………どんひおっぱ?」

「うん」

呼応するように、重なる掌に力が籠る。

「どんひ、おっぱ」

「なぁに、+++ちゃん」

笑ってくれる顔が、とても嬉しい。

名前を呼べば呼ぶだけ熱くなる頬はそのままに、嬉しさが伝染して口許がゆるくなると、繋いでいない方の指先が口角から頬を滑った。

「+++ちゃんっておいしそうだよね」

「は………っえ!?おいし!?」

「ははっ、うん」

動揺する私に可笑しそうに笑いながらほんの少し、顔を寄せる。

「一生懸命俺を追ってくる眼も、楽しそうに緩む桃色のほっぺも、」

するり、と親指の腹がなぞる、

「俺の名前を沢山呼んでくれる、くちびるも」

結んだくちびるに慣れない感触。

「そんなに可愛いと食べたくなっちゃう」

熱を孕んだ声が頭から爪先まで走るようで。


「行こうか。+++ちゃんの好きなもの、教えて?」


歩き出す背中と、影は少しの距離を作るのに離れない大きな手に確信する。

今日はやっぱり、心臓がもちそうにない。





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