タイトル企画2
□ジャム落下
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こんなに弾んだ気持ちでCDショップに入ったのは初めてかもしれない。
仕事帰り、社会人になってからは初めてのCDショップへ寄り道。
店内に入れば目の付く場所に展開されたそれ。
制服を着た女の子達数人が大きなそれを手に持って甲高い声をあげ何か話し込んでいる。
人気者なのだ、あの人達は。
同じ事務所にいるのに知らないなんて、社員失格。
「東方神起なら知ってたんだけど…」
ずっと何かを話しながら売り場を離れた学生達に続いて重ねられた物を手に取った。
「お勉強、しなくちゃ」
迷いもなくそのままレジへと向かう。
けどそれ以上に心が浮き足立っているのも事実。
袋を渡されて、両手に抱えながら帰路へと着いた。
初めてCDを手にとって数週間。
気付けばプレーヤーの隣に平積みになった数枚のCD。
「なんでもっと早くあの音楽に出逢わなかったんだろう…」
腕に書類を抱えて深い後悔。
思いっきり溜め息をつくと後ろから隠そうともしない笑い声が響いた。
「考え事?」
後ろから覗き込むようにシンドンさんが笑いかける。
「っ、あ、いえ……!」
距離の近さに首を後ろに引くと危ないよ、とやんわり頭を柔らかな掌で抑えられた。
瞬間、ふわりと鼻を掠めた香りにほんの少し、熱が上がる。
まるで後ろから、抱き締められたんじゃないかと思ってしまうほど自分の回りに広がる感覚が、
「+++ちゃん?」
「っへ、!?」
そこまで考えたその瞬間、思考が止まった。
「大丈夫?少し顔赤くなってきたけど……」
柔かな声と、優しい指先が、額を滑る。
熱を計るように掌全体を額に当てて微かに首を傾げた。
「…熱、なさそうだね。熱でフラついた訳、じゃないよね?」
その言葉に首を振ると良かった、と添えられた両手はようやく離れていく。
それでも上がってしまった熱が簡単に引いてはくれなくて、更には心臓が煩いほど動悸をあげて。
「あ、あの……なまえ、」
浮わついた熱はふわふわとした言葉を紡いでしまう。
「え?あー……さん付け、は、嫌で」
どこか決まりの悪そうな表情で、シンドンさんは睫毛を伏せた。
口先に乗ってしまった言葉は無かった事に出来ないのは勿論、今更なんでもないと取り繕うことも出来ずに二人の間でさ迷い続ける。
上手い言い訳も思い付かないまま顔を俯けると書類を支える手の甲に、大きな掌が重なった。
「+++ちゃん、て呼ばせて?」
頭上から降ってくる言葉は照れが混じっていて、その声音に喉がきゅうっと音を立てた気がする。
「……それから、」
「、え…?」
更に熱が混じったような声と同時に、頭に重なってくる体温。
「俺のことも、さん付けしないで」
まるでそこに落ちるのが決まっていたかのように。
「……し、しんどん、くん?」
「…うん」
口にした新しい呼び方が喉を通り、わたしの胸に恋になって落ちた。
「+++ちゃんにはそう呼ばれたい」
甘い想いが、胸いっぱいに広がって。