タイトル企画2
□ハニーレモンはお気に入り
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見ていきますか?と笑ったシンドンさんと同じく便乗したヒョクチェさんに甘えて、スタジオの端っこに座りレッスンの見学。
普段マネージメント部署に全く関わりなく、事務部署でも更に下っ端となるとアーティストの事なんて更に触れずに職務をこなすから。
「+++さん口開いてる」
気付けば頭からフルで踊っていたのも終わっていて。
目の前には肩で息をするシンドンさん。
額に滲んだ汗すらぼんやりと見詰めていれば目の前で目尻を緩めた。
「ふふ、+++さんおもしろいですね」
手に持ったタオルで汗を抑えながら、相変わらずぼやっとしてる私の頭をその大きな掌で撫でる。
されるがまま撫でられるのが心地よくて、払うこともせずに撫でられていると軽い足音を立ててヒョクチェさんも近寄ってきた。
静かに離れたシンドンさんの掌を意識の片隅で追い掛けながら、私の前で座り込んだヒョクチェさんに視線を向ける。
シンドンさんは私と並ぶように、壁に背中を預けるような体勢で座った。
「+++さん見てました?今の次のアルバムタイトル曲なんです」
「ほぇーそうなんですね!素敵でしたもんほんと!初めて見たので驚いちゃいました」
掌を握り締め興奮そのままにまくし立てるよう口にすれば、一拍置いて目の前の彼がどこか恥ずかしそうに口元を隠し、ありがとうございますと零す。
その仕草がまた可愛いくて、髪の合間から見えた赤く色付いた彼の耳に口元が微かに緩んだ。
「私お邪魔なのでそろそろいきますね」
折角の休憩時間に私の相手をしてくれる2人にお礼を言いながら立ち上がって。
次いで立ち上がったヒョクチェさんはシャツの袖を掴んだ。
「さん付けってなんかよそよそしいから、ヒョクチェって呼んで?」
「え…え!?いや、それはあの、」
「え?なんで?ダメ、ですか?」
しゅんと袖を掴んだまま俯いてしまうから。
「ヒョクチェ、君…ではダメですか?」
けれど今の私にはこれが精一杯だ。
少し伺うように彼の手を握り返すと、ちらりと視線がかち合う。
ダメだったかな…?
今度は自分の肩が僅かに下がった気がした。
「くすぐったいけどそれでっ」
大きく歯を見せて嬉しそうに笑うヒョクチェ君は、やっぱり可愛いと思う。
練習室を出て仕事場に戻ろうと元来た道をもどろうとすると、今出てきた練習室の扉が後ろで開いた。
首だけ少し振り返ると確かリーダーのイトゥクさん(多分)が丁度後ろ手に扉を閉める。
「挨拶してなかったなーと思って」
シンドンさんとヒョクチェ君によく似た優しい笑顔で、初めまして。と腰を曲げた。
慌てて負けないくらいお辞儀を返して、靨を湛えたイトゥクさんを見上げる。
「話しかけたかったんだけどタイミングなくて。リーダーのイトゥクです。ヒョクチェとシンドンがお世話になってます」
すこし冗談混じりのようなトーンで笑う彼と握手を交わした。
「いえ、先にお世話になったの私の方なんです」
経緯を説明すれば彼は男の人にしては大きめな瞳を微かに見開いて、へぇ。と呟く。
「こうやって知り合ったのも何かの縁です、メンバー共々仲良くしてやってください」
また深々とお辞儀をして小さく手を振りながらイトゥクさんは練習室へと戻っていった。
シンドンさんといい、ヒョクチェ君といい。
あの深い深いお辞儀はリーダーである彼の背中を見てるんだろうなぁと、なんだか優しい気持ちが残った。