タイトル企画2
□わずかにシナモン
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あの日、家に帰って貼ってもらった絆創膏を取るとすっかり傷口は塞がっていて貼られた箇所は微かに肌がふやけていた。
そこまで深くなかった傷口に安堵と、反面の残念感。
更に2日も経てばどこを切ったのかすら分からない程に傷口は治癒力を発揮して。
掌をかざしながら通路を歩いてると前から人が歩いてるのが見えた。
ぶつからないように片側に寄りながらすれ違い様に声を掛けようと顔をあげる。
「…あ、」
その人物をしっかりと認識すると同時に足を止めてしまった。
自分のそんな行動に相手も気付いたようで少しの距離を開けて歩みを止める。
「ヒョクチェさん、ウニョクさんですよね」
ふたつの名前で呼ぶと微かに首を傾げながら律儀にお辞儀をしてくれた。
噂に聞いた通り凄く礼儀正しい。
「突然ごめんなさい」
「いえ、大丈夫です、初めましてですよね」
不思議そうな表情でこちらを伺う彼に首を縦に振るとよかった。とやっと少しだけ笑みがこぼれた。
可愛いらしい笑顔に胸をきゅんとさせながら一度深く頭を下げる。
「初めまして、私スタッフの+++っていいます」
「初めまして、スーパージュニアのウニョク改めヒョクチェです」
にっこり笑うと歯茎が剥き出しでどこか幼さが混じり、また可愛らしい。
「今日はここでお仕事なんですか?」
頭を上げたヒョクチェさんに本題へと入ると短く肯定の返事が返ってくる。
「どうかしました?」
「どうというか…」
口先でどもりながら、一瞬言ってもいいのかと思って。
けれど別に隠す程の事でもない。
「今日シンドンさん、もいます?」
私の口から出た名前にヒョクチェさんは更に分からないといった表情を浮かべた。
それもそうだろう、ヒョクチェさんだって今さっき初めましてと挨拶したばかりなのに。
違うメンバーさんを探してるなんて自分が同じ立場だったら、きっと同じように首を傾げる。
何の理由で?って必ず思う。
「いますよ、ダンス練習なんです。スタジオまで行ってみますか?」
けれどヒョクチェさんは特に理由を聞く事もなく連れてってくれるそうで、有り難くそうしてもらうことにした。
さっき居たフロアより2つ下のフロアに降りて、少し奥まった箇所の扉に手を掛ける。
微かに音漏れしてるフロアにあちらこちらに視線をさ迷わせているとヒョクチェさんに笑われた。
「ただいまー」
扉を開いて中に入っていくヒョクチェさんの後に続いて顔だけ部屋の中を伺うように覗くと、既にヒョクチェさんが誰かに絡まれている。
あれは誰だろう?と覚えたばかりのメンバーを頭に描く。
「もードンへくっつくな暑い!」
そうだドンへさんだ!とヒョクチェさんの声に心の中で喜んでると、そのヒョクチェさんがこっちを振り返る。
それに倣って彼の隣に立っていたドンへさんもこちらに視線を合わせた。
「+++さn」
「あー!ヒョクチェ何美人さん連れてんの!」
ヒョクチェさんが言い切るより早く、ドンへさんが被る。
その声は大きく部屋中に響き渡って、広めの部屋に散らばっていた沢山の視線が一気にこっちに集まった。
「ヒョクチェ彼女?」
「ば…!違うよ人探し!!」
2人のノリが可愛いくて目的を忘れかけながらぼんやりしてるともう一度彼に名前を呼ばれる。
「ドンヒヒョンあそこに居ますから」
呼んでくれる訳ではないようで、少し離れた位置を指差す。
その方向を向くと座り込んだシンドンさんが居た。
「ヒョクチェさんありがとうございます」
お辞儀をして休憩中なんだろう部屋の隅を通って彼に近付くと向こうも気付いたようで立ち上がる仕草をする。
「あ、座っててください疲れてるみたいですし」
手で制しながら隣に並ぶとまたあの時のようにふにゃりと笑うシンドンさん。
「こんにちは、すみません」
「いえ、私こそ突然ごめんなさい、お邪魔ですよね…」
「ふふ、大丈夫ですよ、座ってください」
人差し指をきゅっと持たれて、心臓をどきりとさせながら隣に並んだ。
「お名前聞いてませんでした、聞いていいですか?」
「あ、ごめんなさい…!+++です、+++っていいます」
+++さん…+++さん…ぶつぶつ唱えて覚えましたと笑い、+++さんと呼んで笑顔にまたひとつ、心臓が煩く鳴った。