タイトル企画2
□きっと明日も、
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沢山並んだ靴。
何度通ってもさすがにこの大量に並んだ靴達に見慣れる事はないんだろうな。
「いらっしゃい」
玄関まで彼女を出迎えにいくと、下駄箱をじっと見詰めて何度もまばたきを繰り返す姿にそんな事を思う。
しょうがない、ここに住んでるのは1人や2人なんて可愛い人数じゃないんだから。
日々増えるもの達だから。
「どれがキュヒョンのなんだか分からないね」
しっかり自分の靴を揃えて宿舎に上がる+++にそうでもないけどね。と返せば本人は当たり前でしょ!とツッコまれた。
「おじゃまします」
「うん」
鞄を持たない手を握ればやんわりと握り返してくれる。
こういうところがたまらなく好き。
「+++、ぽっぽしたら怒る?」
少し腰を屈めて顔を覗き込めば微かに視線を逸らして首を縦に振った。
まぁここ玄関だしね。
「冗談」
笑って手を引きながらリビングへと通せば、そこに集まっていたヒョン達が振り返る。
次々にいらっしゃいと迎え、久しぶりと懐かしみ、逢いたかったよと笑い軽いハグをする皆。
するりと抜けていった掌を引き留める事もしないで、しばらく皆のその光景をじっと見詰めた。
時間にしたらたった数秒の間で、彼女の飲み物を用意し忘れていたことを思い出しそのままキッチンへと向かう。
お茶の入ったボトルを出したところでスリッパのフローリングを叩く音と一緒に+++がキッチンにやってきた。
「キュヒョン、ごめんね自分でやるよ」
蓋を開けてコップへ注いで蓋を閉めるともう一度名前を呼ばれる。
お客様は自分のはずなのに飲み物くらい自分で出すという+++が可笑しくて口許が緩んだ。
「キュヒョン全部やっちゃうし…」
膨れる頬を人差し指で押し潰してそのまま首の後ろへ指先を回す。
上目遣いにこちらを見上げる彼女を少し引き寄せながらその唇に触れる。
胸元に置かれた掌が抵抗するかと思えば、意に反して弱くシャツを掴んだ。
「…ヒョン達に見られたいの?」
自分の事は棚に上げてイタズラに耳を親指で撫でれば背中がふるりと震える。
キッチンにだって嫌って程ヒョン達の話し声も笑い声も届いているし、何よりキッチンに扉なんてない。
誰かがトイレにでも立てばすぐに僕達の姿なんて見えるような、そんな危うさ。
「き、きすくらいなら、平気だもん…」
シンクに着いた手を握り締めてじっとこちらを見詰める眼が強い意志を纏って揺れてる。
「…勘弁してよ」
「キュ、ヒョン…?」
そういうの弱いっていい加減分からない訳?
「まぁ、僕は見られても構わないんだけどね、最初っから」
彼女の上唇を自分の唇ではむと甘噛めばうっとりとその眼が閉じる。
細い腰を更に抱き寄せれば逆に彼女の唇が下唇をはむように触れてきた。
舌を絡めるような甘いキスじゃないけれど、柔らかさを感じるようなこういうキスも悪くない。
軽く触れ合うだけのそれをしてお互いに離れた。
彼女がグラスを持ってキッチンを出る。
その背中を自分が追って。
ヒョン達に冷やかされるのは数秒後。