タイトル企画2
□怒らせたくて、
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仕事が終わったのが珍しく早くて家に帰ったら途中で止まったままのゲームを進めようと意気込んだ。
明日は幸いにもオフを貰えて、時間も気にせずゲームをプレイできるってもんだ。
何のタイトルを全クリしてやろうかと思ったところでソンミンヒョンに肩を叩かれた。
「ね、キュヒョナ、今日呑みに行かない?」
少しばかり浮ついた音色で聞いてくる。
「今日は」
「ゲームやるんだったら付き合って。ね?」
愛嬌たっぷりの笑顔で言われてしまえば断ることも出来ず、渋々ながら首を縦に振る。
そこでふと。
「2人でですか?なら家にワインが」
普段からよく2人でワインをあけるものだから常にストックされたものがある。
何もわざわざ出向かなくても。とインドア派な考えで言い掛ければ、ヒョンが僅かに口元を歪めた。
よくない事を企んでる。
いつだってヒョンがこの表情を浮かべた時は後々後悔ばかりしている気がした。
断ろうかな。そんな事さえ頭を過ぎる。
「付き合ってよキュヒョナ、ね?」
もはや、この音色に自分は勝てる日なんてくる気がしないな。
「そんな色気のない誘いをわざわざバンの中ですると思ってるの?」
色めいた声に、含みのある言い方。
ああ、やっぱり後悔が滲み出てくる。
「ヒョン…一応僕は彼女持ちです」
「知ってる。だから声掛けたんだけど?」
続いた言葉に疑問符を浮かべて、もうすぐお店着くよ。と笑ったヒョンに一瞥をくれてやった。
「ただいま」
真っ暗な部屋に一応の挨拶をしたものの、勿論返事なんて返ってこない。
日付も大分過ぎているし、何より今日はこっちに来るなんて知らせてもいなかったし。
それでも今日は酒に酔っ払った頭でこっちに来たのは只+++に逢いたかったからかもしれない。
寝てるのなんて分かりきっているから、ソファに上着を乱暴に投げつけてそのままベッドを覗き込む。
シーツに包まって身体を丸めた彼女は規則正しい寝息をたてていた。
可愛い寝顔に、自然と掌が伸びる。
「+++、+++起きて」
するする滑る頬を撫でて微かに渋った彼女の隣に潜り込む。
さすがに違和感を感じたのか薄目で意識を朦朧とさせる+++の首筋に躊躇いもなく噛み付く。
少し乱れた部屋着の裾から掌を滑らせれば小さく笑って、身体の力が抜けた。
「…っん、きゅひょん手ぇ熱い…」
下唇を噛みながら漏れる息に笑いながらその唇に自分のそれを寄せた所で、+++の目がハッキリと開かれる。
「お酒、じゃない」
「…ん?なに?」
思いっきり腕を突っぱねて身体を押し返されてキスはお預け。
むくれて眼下の彼女を見れば彼女の目に快楽の余韻なんて一切残ってなかった。
こちらを見上げる彼女のそれは悲しみと怒りが混じった色。
「…キュヒョンのじゃない香りがする。やだ」
そう呟く彼女にああ。と思って、してやったりと、笑った。
無理にキスをしようと顔を近付ければやだやだと首を振る。
その顎を掴んで唇を塞げばそれまでの抵抗が簡単に弱まってしまった。
「+++、怒った…?俺の事嫌いになる?」
生理的にか、次から次へと流れる涙を親指で拭えばその手に痛いほど強く爪を立てられた。
怒ってる、すっごく。
それがよく分かった。
「ごめん、でも疚しい事してないよ」
「でも…っ」
「ちょっと待って」
傍に置いた携帯を手にとって少し操作する。
安心させるように空いた手で髪を撫でれば鼻が小さくすんと鳴った。
それすら可愛いくて頬が簡単に緩む。
「はいこれ」
今日の酒の席での写真。
1枚目は女の人に抱き付いたソンミンヒョンの写真。
2枚目はそのソンミンヒョンが自分に抱き付いた写真。
匂いが間接的に移った証拠。
「ちなみにこの女の人、イトゥクヒョンのヌナね」
自分は全く抱きついてない。と続ければふてくされた彼女は寝返りをうってしまった。
まるっきりうつ伏せてしまった小さな背中に携帯を枕元に戻す。
「ごめん、もう誤解させない」
緩みっぱなしの口元で謝っても信憑性なんてないに等しい。
彼女が背中を向いていてよかったと心で思う。
「…好きだよ、+++」
きっと矛先の失った怒りと、安堵とぐちゃぐちゃでまた泣いてしまってるんだろう背中に気持ちを呟いて、少し熱の引いてしまった掌で肌を撫でた。
女の人がいるって知っててその場に行ったなんて知ったらもっと怒るよね。
好き過ぎて、ヤキモチ妬かせなくなったって言ったらキスもさせてくれないかもね。
「+++だけが、好きなんだよ」
乱れた髪を整えて、出て来た首筋に唇を寄せた。
「……」
「ね、+++機嫌直して?早く仲直りのチューしたい」
早く君だけに触れたいだけなんだ。