タイトル企画2
□ゼロ
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ころんと可愛らしい音の後に咥内いっぱいに甘ったるい味が広がった。
ヘアメイクさんから顔色が悪いと手に握らされたのはいちごミルク味のキャンディ。
本番まで時間があったのもあって、その場で封を開け口に放り込んだ。
「ありがとヌナ」
どういたしまして。と微笑んだ彼女は次の人へと向き直る。
丸い固体を咥内で行き来させながら目の前にあった雑誌を開いた。
表紙と巻頭特集には同じ事務所の+++が載っていて。
可愛らしい笑顔から少し大人っぽい表情まで載ったページを何度も行き来する。
最近顔を見てなかったせいもあり、妙に感慨深げに雑誌を見詰めていればドンヘに肩を叩かれた。
「ヒョン、もう行くって」
扉を向いたドンヘに短く返事を返して彼の一歩次いで楽屋を抜ける。
スタジオに続く廊下を今回の振りを頭に浮かべながら歩けば。
スタジオに入る前の角でさっきまで見ていた顔を見付けた。
「あ、おっぱ!」
子犬みたいに目を輝かせながら走り寄ってくる小さな身体をなんの抵抗もなく抱きしめた。
「今日+++も収録だったんだ」
ぽんぽんと背中を叩いて身体を離せば、自分とは反対側に靨をつくって控えめに笑う。
可愛いなと素直に思い、頭を撫でてやると下から見上げた顔は微かに横へ傾いた。
「オッパ何か食べてる?」
自分の白い頬を指先で突く+++にあ。と小さな声をあげる。
最初より随分小さくなったいちごミルクをまた、反対側へと転がした。
「ヌナに貰ったんだよ、飴」
「えーいいな、私も欲しい」
そう衣装を摘んだ+++に渋る顔をして、更に頭を撫でた。
「ごめん、今舐めてるのしか貰わなかったからあげれない」
言い終わると同時に前からヒョクチェに呼ばれ、+++にもう一度ごめんと繰り返す。
少しむくれた顔を浮かべる+++を軽く宥めて掌を離そうとすれば、細い+++の腕に掴まれた。
「なに、」
じっと見上げるような視線に自分も首を傾げれば、随分低かったはずの彼女の顔がすぐ目の前に近付く。
一瞬の事に驚くも、気付けば唇に彼女の柔らかいそれが触れては離れていった。
「ん。飴もーらいっ、いちごミルク〜」
身体を離した+++は満足げに笑う。
あまりに突然すぎて廊下で離れていく背中をただ茫然と見送ってしまった。
現場を見ていたヒョクチェが、僅かに笑う。
「…ヒョン。顔だらしないよ」
残ったのは頭のてっぺんまで沸いたような熱と、不思議な感触だけ。