べるぜバブ
□思い出してはまたひとり嬉しくなるの
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ベル坊の大泣きをたった一撫でしただけで止めた男鹿を見て、やっぱすげえな…とは思ったけど、何でそれだけで、とは思わなかった。
男鹿の手は温かい。
大きくて、強い者の手をしているから、撫でられると安心する。
男として情けないようだが、俺はそれを一番よく知っているんだ。
ベル坊の小さな背中に昔の自分を重ねて、古市は自分が今よりもっと弱く幼かったときの事を思い出していた。
――それは男鹿と古市がまだ小三だった頃。
男鹿の誕生日からは数日が経ち、9月上旬の強い日差しが照りつける中、古市は1人ぼんやりとアイスを食べていた。
「おーい古市!」
聞き慣れた声のした方を振り返ると、片手に何かを持った男鹿が嬉しそうな顔でこちらに走ってきていた。
「よお男鹿。
なんか嬉しそうだな?」
「おう、見ろよこれ」
男鹿が差し出した手の中には、アンテナのついた何か黒い物体があった。
「これ…トランシーバー?」
「そうだ、びびったか」
男鹿が妙に嬉しそうな原因はこれか。
「どっかで拾ったのか?」
「ばか言え、買ってもらったんだよ誕生日プレゼントに」
「まじで!?
コレたけーんじゃねーの?
えーいいなあ…」
――男鹿だけこんなのずるい。
今思えば誕生日に親からプレゼントをもらうことの何がずるいのだという感じだが、なにせ幼い日の古市である。
しかし驚いたのはこのあと、古市の気持ちを感じとったかのように男鹿が
「おう、いいだろ。
でもこれは2人以上で遊ばないと面白くない。
そこでお前に片方やろうと思ってな!」
と、ニヤッと笑ったことであった。
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