短編
□Vague relation
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青春学園中等部の校長室に立て掛けられた、立派な優勝旗。
いろんな強豪達を相手に、何度も苦難を乗り切った結果、今年は見事全国制覇を成し遂げた、青学テニス部であった。
その一瞬が、どんなに喜ばしかったのだろうか…。
今でも胸が熱くなりそうになる。
その後、手塚の意志を受け継いで、新部長となった海堂率いる新しいテニス部は、新たなスタートを切った。
あれから早一ヶ月――。
明日の行われる全国大会明けの新人戦を控えて、本日の練習は無い。
今回の校内ランキング戦で決定された、リョーマや海堂、桃城を含めての8人のレギュラーを集めて、部室内でのミーティングのみ。
「いいかい?今日は十分体を休めて、明日には万全とした体調で、試合に望むように。聞いてるかい?リョーマ!」
「ウィース」
顧問の竜崎スミレは、胸の前で両腕を組んで、真面目に話を進めるところを、大きな口を開けて欠伸をするリョーマに、呆れて溜め息を漏らす。
それを隣で、クスクスと口元を押さえて笑いを堪えている桃城に対して、リョーマは無性に腹が立ったのか、キツく睨みつけた。
「そう怒るなって…越前!」
「勝手に笑った桃先輩が、悪いんでしょ!?」
「こらぁ、お前達ッ!ハァ…まったく…」
深く溜め息を漏らし、呆れ返るスミレ。
やれやれと小さく首を振りながらも、何とか話を戻す。
「じゃあ海堂と桃城は、これからわしと明日の試合のオーダーを決めるよ」
「ウスッ…」
「ハァ…しゃあねぇ〜しゃねぇよ〜」
面倒臭そうに複雑な表情を浮かべながら、海堂と桃城は部室を出ていくスミレの後をついていった。
すると一人残されたリョーマは、部室の扉がバタンッと閉まるのを確認すると、直ぐさま着替えを再開させた。
――明日の試合相手は…
確か、名古屋聖徳…だっけ?
一方、その頃――。
学校から数十分歩いた場所にある、普段はひっそりとしている小さな公園の方から、ポンッポンッと打球の音が聞こえた。
制服姿でラケットを片手に、美しい夕日に照らされて、一生懸命に壁打ちをする桜乃の姿があった。
「えぃッ、えぃッ…あっ!」
不安定なリズムで何度も壁にボールを打ち込むが、連続で数回のうちにボールが変な方向へ、大きな孤を描いて飛んでいってしまった。
どうやら、少し茂みのある木々の中に落ちたらしい。
自然と溜め息が出て、脱力感も生まれる。
それでも桜乃は、ベンチに荷物を置いたまま、ボールが飛んでいった方向へ仕方なく探しに行った。
「はぅ…。どうして上手くならないのかなぁ〜?毎日素振りもしてるのに…」
桜乃はキョロキョロと大きな瞳で辺りを見渡しながら、慎重にボールの行方を追う。