短編
□Light of Love
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テニス界では勿論、世間でも既に彼の名を知らない人はきっといないだろう。
おまけに、18歳という若さでプロテニス界に入り、現在でもバリバリ活躍中の世界上位を争う一人でもあり、またサムライ南次郎の息子でもある、史上最年少の
越前リョーマ、二十歳。
とは反対に、表側では極普通の女子大学生であり、裏側では極一部の人間しか知らない、"越前リョーマの最愛の恋人"としての存在である、
竜崎桜乃、二十歳。
中学2年から交際を始めて早7年の月日が経ち、見た目も随分大人びていた。
生まれてからずっと伸ばしている、桜乃の長くて綺麗な髪は、誰よりも大好きなリョーマの為に、長さを上手く調節しながら伸ばしている。
そして本日は、久しぶりに懐かしみのある二つの長い三つ編みで整えられていた。
なぜなら――
12月24日――
今年最後の大行事でもある、"クリスマス・イブ"でもあり、そして…
私の…最愛な彼氏(ひと)……
"越前リョーマ君の誕生日"――
――ガタンッゴトンッ…
ガタンッゴトンッ…。
そんな初々しい美男美女の二人は、激しく揺れる狭い満員電車の扉に寄り添っていた。
空はもうすぐ夕日が沈みかかろうとしている。
終いに、美しい星や綺麗なお月様が、今夜も夜空に現れ始めた。
「竜崎、平気?」
「うん、ごめんね…。でもリョーマ君は苦しいよね?本当にごめんね…大丈夫?」
「オレは平気。心配いらないから」
愛しい彼女を人混みの波から守るために、リョーマは桜乃の目の前に立って向き合う。
普段の彼女なら、リョーマと至近距離な立場にいると、一瞬で顔を真っ赤にさせ、固く身を縮こませる。
初めは何事かと内心焦っていたが、しかし今はそんな桜乃らしい行動が、本当に可愛く思えてしまう。
すると彼女は、オレの顔を見て何かに気づいて、少し慌ただしく自分の鞄から、ピンク色のハンカチを取り出した。
「さっきは走ってきちゃったから、少し汗かいちゃったね。風邪を引いちゃうね…」
「ん。サンキュ」
自分の額や頬に流れる汗を、優しく拭き取ってくる桜乃のそんな可愛い行動に、リョーマはフッと笑みを浮かべた。
だけど。
――そんな無防備な表情(かお)でしないでよね…。
こんな場所で誘ってんの…?
リュウザキサン?
丁度その頃、二人を乗せた電車は、地下の長いトンネルに差し掛かっていた。
それを抜けると、すぐ目的の停車駅に着く。
トンネル内の十分な暗さと、狭い空間の中で更に膨張した電車の音に桜乃はビクビクと身体を震わせ、少し戸惑いながらも、更に無意識にリョーマとの距離を縮めた。