短編
□冷凍恋
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『ねぇ、オレ別にアンタの事好きじゃないし…』
『"恋"なんて、オレは信じないよ』
『オレはアンタの事を好きにならないよ?…竜崎』
――……ゃ…ぃや…イヤァァッ!!!!
「ッッ!!」
…こ、こは?
額の汗に張り付いた前髪を軽く払い、荒い呼吸に一度深呼吸する。
桜乃は顔だけを動かし、周囲を見渡す。
見慣れた部屋の風景。
桃色のカーテンから、月明かりが差し込んでいた。
壁に架けられた時計の針は、先程3時を回った所だった。
「夢…?ハァ…」
額の上に手の甲を乗せ、再び瞳を閉じた。
脳裏に浮かび上がる残像。
最近、久しぶりに彼に会った時の逞しい体つきや一段と目線も高くなった。
そして、今にも背中から大きな翼を広げて、"世界"という大空へ羽ばたこうとしている、
今は誰よりも大切な人。
…なのかな?
「リョーマ君…」
――私は、これからもリョーマ君の事を好きでいられるのかな…?
――今から7年前。
二人が出会った中学生の時。
あの頃の自分は、世間で言われる"青春な恋"をしていた。
初めてリョーマに出会って、彼の華麗なテニスにとても憧れを持ち、それがテニスを始めた理由。
テニスに対する執着心と負けず嫌いでいつも自信に満ちた…そんな越前リョーマの姿に、桜乃はいつも遠くで見守る中、ずっと憧れていた。
――リョーマ君のように、もっとテニス上手くなりたい!
それだけを目標に、練習の基本である素振りと壁打ちなど、一生懸命練習をしてきた。
時には羽ね返ってきたボールを打ち返せず、自分の不注意で怪我をすることもロブを上げて、近くにいたリョーマから注意を受けることも多くあった。
「野球なら完璧ホームランだね」
「リョーマ君の意地悪…」
「それにラケットの面にちゃんと当ててなかったから、こうなったワケ」
「うぅ…ごめんなさい」
言葉をあまり選ばず、素直な答えで伝える彼の言葉に、本当に落ち込みそうなる。
彼の前で必死に涙を堪える場面は、何度もあったけれど、それでも最後には…
「ま、今日は前よりもフォームはよくなってた」
「えっ…?」
「でも、まだまだだね」
そんな一言が、助け舟となり、とても勇気付けれる。またこれからの自信にもなっていく。
そんな瞬間が、本当に嬉しくて嬉しくて…だから簡単にテニスを捨てられない。
もっともっとテニスが大好きになっていく。
そして…
唯一、リョーマとの距離感を身近で感じさせてくれる。
そんな時間がとても心地好いものだった。