R子の中庭

□遠い記憶
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「カンシュコフさん、本当に入れ歯じゃないんですか?」
「しつこいぞ」

どうしても信じられないらしいプーチンは、先程から同じ質問ばかり繰り返している。流石にカンシュコフも青筋をたてた。

「いい加減にしろよ、のろまの分からず屋。自分の意見を押し通そうとするな」
「ごめんなさい!でも本当に信じられなくて…」
「なんだお前は。図太いヘタレ野郎」
「カンシュコフさん、そんな事言われる人の気持ちを考えて下さい」
「お前に言われたかねぇんだよぉ!!」

看守は涙を浮かべながら怒鳴り散らしている。しかし541番はかなり図太く、また「でも…」と何か言おうとする。

「黙れ黙れ黙れ!!お前なんかに口裂けウサギの気持ちなんて分かるかよ!!」

そう怒鳴ると、カンシュコフは小窓を閉めてしまった。此方からは見えないが、きっと泣きながら走り去ったに違いない。

プーチンは流石に申し訳なかったかな、と反省したが、10分足らずでいつもの様にコサックを始めた。多分忘れたに違いない。

それから二時間後、食事を持って来たカンシュコフの瞼は腫れていた。

「あれ?何かあったんですか?」

事件の張本人がそう聞いたため、看守は食事を渡す前に小窓を閉めてしまった。

「あっ待って!ご飯は!?」
「バカ。ヘタレ囚人のバカ。馬鹿すぎてやり返せない」
「看守さん、ご飯ってば!」
「うざい。黙れ。ソ連のゴミ屑。お前なんかシベリアの屋外駐車場に磔にしてやる」
「意味分かんないです!」
「呼吸止めろ。止めてしまえ」
「うわぁ…この人病んじゃってる」

プーチンは看守にひたすら食事を頼んだ。看守がいじけている原因が、自分にある事もすっかり忘れて。

ベッドの上では、キレネンコがスニーカーを磨いている。目の前のイザコザも気にかけず、ひたすら磨く。

「キレネンコ〜、看守さんがご飯くれないよぉ」

お腹ペコペコで、キレネンコにすがりつくプーチン。自業自得なのだが。

「…」
「無視かい!」


それから三時間後、お腹がすいたキレネンコが人参ステーキを注文し、飢餓状態だったプーチンは、やっとの事で食事に有り付けましたとさ。

「…お前俺に謝れよ」
「え、何をです?」
「消えてしまえ」



End

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