駄文

□Milky Way
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二人は出会ったの。

二人は恋におちたの。

愛し合う二人はずっと、ずっと一緒にいていつの日か仕事もしなくなっちゃったから引き離されちゃったんだよ。

どんなに会いたくても二人の間には遮る川があった、それが


「Milky Way」


滑らかな発音が静かな部屋に響いた。


「知ってたんだ」

薄暗い部屋。
二人はベッドの上で背中合わせに座っていた。
桜乃は膝をかかえて。
リョーマはあぐらをかいて。

薄暗いのは寒色のカーテンが閉めきられているからか、それとも外が曇り空だからか。


「でもね、その二人も年に一回だけ会うことが許されてるの。年に一回の夜だけ。それが」

「七月七日。今日でしょ」


桜乃は何も答えずに膝に顔を埋める。
リョーマが桜乃の背によしかかり身体を預けた。


「離ればなれの二人。重なる?俺たちと」

「違うもん」


中等部を卒業し、高等部へと進学した二人。
だがリョーマは海外遠征で日本を離れることも多く、翌日も日本を旅立つことが決まっていた。

そのせいか今日の桜乃は口数も少なく、リョーマの部屋に来てもただ座っているだけだった。

そんな桜乃が突然話し出した七夕の話。
日本にきて数年だがリョーマも耳にしたことはあるし、何より今日の古典の授業で七夕にまつわる昔話を説明しろと先生にあてられたので嫌でも覚えた。
リョーマが寝ていたからあてられたのだが。

リョーマは明日には日本を離れる。

中等部のときから付き合っている桜乃は毎回「待ってるからがんばってね」と少しだけ寂しそうにしながらも笑顔で見送ってくれていた。

その桜乃が今回に限ってこの反応で急に七夕の話をしだしたとあっては、離ればなれの織姫と彦星に自分たちを重ねているように思えてならなかった。


「強いやつぶっ倒したらすぐ戻ってくるって」


長い三つ編みを引っ張って言う。
桜乃は答えない。


「やけにご機嫌ななめじゃん。なに?」

「違うもん。ただ今日は七夕だなって」


「竜崎」


振り替えって小さな背中を抱き締めた。


「寂しい?俺に行ってほしくない?」


「そんなことっ…」



言えるわけがなくて。

行ってほしくない。
寂しい。

でも自分がそれを言ったら彼を困らせてしまうから。
だから言えない。


桜乃は唇を噛みしめ、きつく膝を抱いた。



「さすがに行かないでって言われて行かない訳じゃないけど、あんたが寂しいなら俺だって考えるよ」


たとえば?と桜乃が言うと同時に視界が反転した。



「え?」


自分のおかれた状況が呑み込めず声が漏れた。


あ、でも、知ってる。この光景―。


すぐ目の前のリョーマの顔。

軋むスプリング。

彼の匂い。




知ってる。

自分は押し倒されたのだ。彼に。

彼と付き合うようになり高等部に上がって、自分がこの状況におかれることは増えたから。

彼の海外遠征の日程が決まればこの部屋に来るたびにこうなっていた気がする。



知ってる。


このあとどうなるか。

彼に何をされるか。

わかっていた。
こうなることも。



わかっていたのに自分はここにきた。

きっと心のどこかでこうなることを望んでいたのだ。




「あんたが今だけ俺がいなくなることも忘れるくらいのことはしてあげられるけど」


ほら。ね。


桜乃は気だるげにリョーマから顔を反らし、いつもなら何かしらの抵抗をするのに、今回は両手を投げ出し『好きにして』と態度で示していた。

リョーマの表情が険しくなる。



「イヤなの?」


「違うよ。だから、リョーマくんの好きなようにして」


「そ」


短く答えてリョーマは桜乃の首筋に顔を埋めた。
首筋に唇が這う。
酷くゆっくりとした動き。


リョーマに対して反抗的ともとれる態度をとりながらも桜乃の吐息は確実に熱を帯びていた。

背筋をなぞる指先に脳内が痺れていく。


「りょ、まく…」


目を瞑りその名を呼べば答えるように抱きしめられた。

リョーマがベッドの上の三つ編みを手にとりゴムを解いた。

未だ編まれた状態の髪の毛に指を通せばスルスルといとも簡単にほどけていく。


散乱したそれを少しだけ掴み口づけを落とせば甘い香りがした。

桜乃の花のように甘く、お日さまのようにあたたかくしてくれる匂い。
この香りに包まれてどれほど癒されただろうか。




なんなのさ、あんた。




素直になれば?

俺に行ってほしくないんでしょ?

寂しいんでしょ?



そりゃ
あんたに寂しいから行かないでって言われても行くけどさ。

言ってほしいとか思うわけ。

一人で抱えこんでそんな態度とられるなんてごめんなんだけど。



俺に言ってよね。

あんたが寂しいって言ったら俺もって言ってやるからさ。

あんただけじゃない。
強がってるけど俺だって。

けど倒したい奴がいるからあんたには待っててとしか言えない。




いつの間にか自分よりだいぶ小さくなった身体。

いや、俺がでかくなったのか。


その身体を壊さない程度に力をこめて抱き締めた。



『リョーマくんの好きなようにして』


んだよ。


あんた、俺がそんなに溜まってるように見える?


抱きたいからあんたを抱くんじゃないし。

あんただから抱きたいんだけど。


竜崎のばか。

あー。あほらし。
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