駄文

□convey
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なんでなのさ。

俺はあんたがこんなに好きなのにあんたは違うの?

俺たち付き合ってるんだよね?


なのに、

なんで。

なんで俺ばっかりこんな好きなの?


『ねぇ、りゅうざき…』































「リョーマくん」


リョーマの部活が終わって校門まで行けば柔らかい笑顔で桜乃が迎えてくれる。

「お疲れ様」という言葉に微笑みを添えて。


「ごめん、待ったしょ」

「大丈夫だよ」


待ってないと言わないあたり結構な時間ここにいたようだ。

リョーマの眉間にシワが寄る。


「気にしないでリョーマくん。私が勝手に待ってただけなんだから」


勝手にって…。

桜乃の言葉にリョーマの眉間のシワは深くなるばかり。


「勝手にって何?」

「え?」


リョーマはテニスバックを背負い直し、足早に歩きだした。

不機嫌、としか言い様のないその様子に桜乃は驚いたがついて行くのに精一杯だった。


「待ってよリョーマくん」


そう声をかけると意外にもあっさり止まってくれた。
けれど桜乃は止まってくれると思わなかったためリョーマの後頭部に頭突きを食らわせることになる。



「いっ!!」

「ふきゃっ」


桜乃は額を押さえて、リョーマは後頭部を押さえて蹲った。


「リュウザキサン?」


こめかみの青筋をヒクヒクさせながらリョーマが振り向く。
桜乃は痛みのため潤んだ瞳でごめんなさいと謝罪。
リョーマのため息。


「ほんとにごめんなさい」


しゅんと肩を落とした桜乃。
その桜乃のぶつかって赤くなった額にリョーマは唇を押し付けた。



「もう頭突きされんのとかごめんだから、次からは隣歩いてよ」

「だってリョーマくん歩くの早いし…」


確かにリョーマは歩くのが早い。
それでもいつもは桜乃のゆったりとした歩調にあわせていたのだ。
桜乃がこうしてリョーマを責めることなどめったにないがリョーマは相変わらず強気。



「あんたが悪いの」

「わ、私!?」



リョーマの言った通りぶつかったのは自分の不注意のせいだが彼の歩く速度まで自分のせいにされてはたまったものではない。

ちょっぴり拗ねたようにリョーマが言う。


「あんたが『勝手に』とか言うから」

「勝手に…?」



それは先ほど桜乃が校門の前で言ったことだ。

けれどそれでなぜそんなに怒るのか?

桜乃の頭は?でいっぱい。

ぽかんと口をあける桜乃にリョーマはまたため息をついた。



「俺だって竜崎と帰りたいと思ってるし」

「ほぇ?」


桜乃は相変わらずぽかんとしていて気恥ずかしくなったのかリョーマは桜乃に背を向けた。

その耳が少し赤い。



「リョーマくん?」

「俺だって毎日あんたと帰るの楽しみにしてるんだからさ、竜崎が『勝手に』とか言うとまるで俺が竜崎と帰りたくないみたいじゃん」


普段堂々としたリョーマらしからぬ頼りない声。

桜乃がリョーマのシャツの裾をひく。

彼は振り返らない。
だから桜乃はリョーマの顔を覗き込んだ。

顔が赤い。

桜乃ははにかんだように笑うと「ありがと」と言った。
リョーマは無言で桜乃の手を握って歩き出す。







俺ってつくづくあんたにベタ惚れだよね。

でもそれを実感する度になんか、ムズムズしてさ。
別にどこがって訳じゃない。

なんか、ね。

付き合って間もないし、まだ手を繋ぐくらいしかしたことないけど。

でもさ、

伝わってると思ってた。


俺は竜崎がスキって。

あんたが必要で

あんただけで

あんたしか見えてないって。


ねぇ、こんなにスキってどう伝えたらよかったのさ。

どうやったら伝わったのさ…。







あの出来事から数日後の放課後、俺は見た。

あんたさ、何俺以外の奴に好きとか言われちゃってるの?
赤くなった顔とかなんで他の奴に見せるの?

それって俺だけの特権でしょ?


ねぇ

「竜崎」

竜崎とソイツが振り返った。


竜崎は目を見開いて『驚いてます』って顔に書いてあるようで、ソイツの顔にはただ俺に対する怯えが見えた。


「何してんの?帰るんでしょ?」

「あの、ごめんねリョーマくん。えっと…」


チラリと男に視線を向ける。
返事はまだだったもんね。


「そんな奴ほっといて帰るよ」

「でも、私この人に」

「告白されたから返事しなきゃ、とか?」

「うん…」


返事なんて必要ないよ。
今の俺と竜崎の会話を聞いてたならコイツだってわかってるに決まってるし。
律儀に返事なんてしようとする竜崎に腹が立つ。

俺は竜崎とソイツの間に割って入った。



「あんたさ返事なんてわかってるんでしょ?」

「うるさい!桜乃ちゃんに告白しようが俺の勝手だろ!?」



桜乃ちゃん、ね。



「気安く竜崎の名前呼ばないでよね」

「りょ、リョーマくん!」


何、竜崎は俺じゃなくてソイツの肩を持つわけ?


「見ての通り俺たち付き合ってるんだよね。わかったとっとと消えてよ。どうしても返事が欲しいって言うなら答えはnoだよ」



不敵にニヤリと笑って見せる。

その挑発に耐えられなかったのかソイツの顔がカッと赤くなって俺の胸ぐらを掴んだ。

竜崎の悲鳴。



「やめてくんない?あんた相手にケンカして負ける気はさらさらないけど、俺一応テニス部だからケンカとかしたらいろいろ面倒なんだよね」


コイツは俺より軽く10cmはデカイ。
だから胸ぐらを掴まれてる俺は下から睨む形になる。
ポケットに手を突っ込んだまま。


「なんでお前なんかが桜乃ちゃんと付き合ってるんだよ!?」


そんなの決まってるじゃん。


「俺と竜崎がアイシアッテルからだよ」


にんまり笑って、ゆっくり、はっきり言ってやる。

そしたらコイツが面白いくらいはっきりと怯んだ。


「桜乃ちゃん、それ本当?」


だからその呼び方やめてよ、ムカつくな。

やっと胸ぐらが解放される。

言ってやんなよ、竜崎。
俺がスキだからあんたとは付き合えないってさ。

竜崎は何にも言わない。
ただ俯いて。

何だよ。



「竜崎、俺のことスキなんでしょ?」


そしたら竜崎が小さく頷いて。
俺の気持ちが浮上した。


「桜乃ちゃん、やっぱり言わされてるんだろ!?」


は?
言わされてるって、何さ。


「何勘違いしてんの、竜崎は恥ずかしがり屋なだけだから」

「けどっ」

「いい加減にしてくんない?よく言うじゃん。しつこいオトコはキラワレルって」


悔しそうにソイツは表情を歪める。
最後に俺を一睨みして去って行った。
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