短編中編

□桜の下で、
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―――ねぇ、知ってる?

桜の木の下には

綺麗な女の人の死体が眠ってるんだよ―――







いつか言われた言葉を、儚げに咲き誇る桜を眺めながら思い出していた

「あいつ、あの下に埋まってるとかじゃねぇよな」

物騒な言葉を呟く黒スーツの男、リボーンはある一人の女性の帰りを待っている

「あれからもう二年経つぞ………ハヅキ…」


彼女がリボーンの前から、何の前触れもなく姿を消したのは二年前の冬のこと

その一年前には、二人は付き合い始めていた


「…ただいま」

『おかえりリボーン。今、コーヒー淹れるね』

「ああ」

仕事柄、帰りは夜遅く
それでも笑顔でおかえりを言ってくれる
それがハヅキだった
(仕事帰りのハヅキのコーヒーは格別に旨いからな)

それだけでなく、今まで関わった女の中でも
優しさは人一倍あった

前に愛人の一人に街中で出くわした時があったが…





「リボーンっ……!…その女(ヒト)、どなた?」

「シェリーか…」

寄りにもよって金持ちの嫉妬深い奴に会うとは…ツいてねぇな

「リボーン?」

『シェリーさんでしたよね、私はハヅキと申します。リボーンとは知り合いなんですか?』

「ハヅキ?」

仮にもライバルともとれる女に笑顔を向けなくても…と思ったが
それがハヅキという女だ

「知り合いなんてものじゃ無いわよ、わたしはリボーンの愛人なの。あなたこそどういう関係なのよ」

彼女の表情にはハッキリと嫉妬の色が出ていた

『愛人なんでしょうね、恐らくですけど』

「ーーっ何なのあなた!よくもまあ易々とそんな事が言えますね!他の女なんて認めないわ、本当の愛人はわたしよ!そうよね?」

自意識過剰すぎる

「残念ながら、嫉妬深い女は好きじゃねぇ」

『!』

「!!っ…酷いわ」

「俺はそういう男だ」

シェリーは泣きながら去っていった

『リボーン…』

「悪ぃ、な…
…実を言うと他にも何人か居るんだが…」

さっきの会話にこの話。フラれても仕方ないな…

『気にしてないよ。今は私を好きでいてくれてるんでしょう?…それだけで十分幸せよ』

そう言って笑ってくれた



それから一年程経ち
俺からプロポーズして、式を挙げることになった
だがその翌日
ハヅキは何の前触れもなく、姿を消したのだ


そして今に至る

「そろそろ、戻って来てもいいだろ…ハヅキ…寂しすぎて死ぬぞ」

呟いた所で、その言葉がどこに居るかもわからないハヅキに届く訳がなく、虚空に消えるだけだった
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