短編中編

□miniature garden
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「ハヅキはお姉ちゃんだから、みんなの事よろしくね?」

3人の孤児を連れて来たシスターはそう言って、その少年達の世話を私に任せた
年端もいかない彼らの眼は、他人には知り得ない闇を抱えた色をしていた

『私、華藤ハヅキ、よろしくね!』

この小さい箱庭で、せめて彼らが笑えるように笑顔を浮かべた
かつて自分がそうしてもらったように

こちらから名乗ったおかげか3人も名前を教えてくれた

それから色々な事を話した
殆ど私の独り言に近かったけど、みんながここに来た経緯は聞かなかった
人に心を閉ざした瞳を見れば、語りたくない過去がある事は分かり切っている

『こうしてひそひそ話してると、秘密の作戦会議みたいだね』

「…なら、僕達は大方秘密結社のメンバーですか?」

オッドアイの少年、骸がそう応えた
漸くまともな会話ができたような気がする
犬と千種もその喩えに興味を示した

『それも面白そうだね!赤色は主人公の色だし、リーダーは骸かな』

「僕、ですか」

「骸さんならピッタリらびょん!」

カッコいいと言うと初めて笑顔を見せた

「この眼の事を言ってるなら、厭味ですか?
僕はこの眼を嫌っていますから」

その言葉が、彼の右目が自然に授かったものではないと示唆しているような気がした

『でも、私は茜色みたいで綺麗だと思うよ。過去に何があったかは知らないけど…聞くつもりも無いけど、素敵な色だよ』

思った通りに心のままに告げた

『骸は無理に好きにならなくてもいいよ、辛い事があったんだと思うし…その分私がその眼を好きでいるから』

なんて言って笑う私は、お姉ちゃんぶっているだけかもしれない
それでも、家族になった彼らには笑ってほしかった

「…初めてですよ、そんな事を言った人間は」

「相当、変わり者…」

『うん、よく言われる』

里親にと近付いて来た大人にも散々言われた
一様に笑顔を浮かべると、唐突に話が戻った

「この4人が秘密組織なら、リーダーはハヅキですね」

『私?』

予期せぬ指名に目を丸くする
骸は柔らかく笑いながら続けた

「僕達の《お姉さん》なんでしょう?」

『!』

家族として認められたように感じた

「姉ちゃん…!」

「姉さん…」

3人にとって初めての存在だ
嬉しそうに笑顔を見せた

『うん…!よろしくね、私の家族!』

独りだった渇いた心に染み込んで、涙が溢れた

「何泣いてるびょん!」

「姉さん、涙脆い」

『嬉しいんだよ、家族ができて!独りぼっちじゃ辛いもん』

彼らが世界の荒波にもまれても生きてこれたのも、3人がいつも一緒だったからだろうなとぼんやりと考えた


小さな箱庭で願う幸せ
4人で過ごす日々は楽しくて、また陽が沈んだ



季節が巡り、大切な人ばかりが理不尽にも奪われていった
幼い頃から愛情をくれていたシスターに初めてもらった赤いマフラーを握り締めた
私は、気付いていたのだ
彼女が若くして死ぬと、予知していた事を

そして、共に幸せを誓った弟達も忽然と姿を消してしまった

『やっぱり、脆いんだね…幸せなんて』

いつからか見えていた光景、誰もいなくなったこの孤児院で独り呟いた





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