短編中編

□餞
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『…イタリア?』

突然に告げられた友人の転校先は海外の学校らしい

「そうなんだ。夏には俺達全員そっちに行かなきゃいけなくてさ」

『全員って、獄寺と山本も?』

「うん」

『そっ、か…急な話だね』

少しだけ残念そうな顔をして見せる
彼らは何かある事を隠しているので、追及はしないと決めている
その何かについて知らない訳では無いのだが、自分が関わっていい世界ではなかった

だからいつもの会話の中で、何も知らないふりをしていた

『夏が明けたらみんないなくなっちゃうなんて…寂しいね』

「…ごめん」

『ツナが謝る事じゃないでしょ?もう決まっちゃった事なら仕方ないよ』

「ハヅキは聞かないの?何で…って」

思い出と一緒に絆を築いてきた友人が、こうもいきなりいなくなる事に追及しないのも不思議に思った

『言っても、ツナ答えられなさそうだから』

確かに答えられる内容では無いのだが、見透かしたように笑うハヅキに迷いは見られなかった

「それは、まぁそうなんだけど」

『でしょ?伊達に2年つるんでないよー』

長いような短いような時間だったが、今は親友だと胸を張って言える

『ねぇツナ』

「ん?」

『今から2人呼んでさ、駅前行かない?』

「えっ後の授業は?」

『そんなのサボる!あとちょっとしか無いんなら、少しでも思い出増やしたいよ』

「ハヅキ…うん、そうだね!」

始業の鐘が鳴る寸前に、クラスが分かれてしまった獄寺と山本に話を付けて学校を飛び出した

「じゃあ手始めに駅前にでも行こうか」

「そっスね!」

『じゃあゲーセン行こう!何か新しい台入荷してるかも』

「そうだな!あ、その後ガンシューとかやんね?2対2のチーム制でさ」

『良いねー!』

「なら俺は10代目と組むぜ!」

「そうなるよね…まぁ良いんだけど」

昼間から制服姿の中学生が行くには不釣り合いだが、それはそれで思い出だ

『あっみんなでプリ撮ろうよ!記念写真って事で』

「良いなそれ!」

「良いけど、落書きとか俺出来ないよ?」

『大丈夫、その辺は何とかするよ!ツナが来るなら獄寺も文句ないよね』

「…分かり切った風に言うんじゃねー!」

「はいはい行こうか獄寺君」

「相変わらずなのなー」

エフェクトやら背景やらの選択はハヅキがぱっぱと決めて、通常サイズは位置をローテーションしながら撮影
縦長と横長は全身を入れて撮影した

『明らかにツナ小さいよねー』

「これから伸びるから良いんだよ!」

「牛乳飲むと良いぜツナ!」

「このアホ共が!10代目は身長なんて関係なしに素晴らしいお人だっつの!」

『知ってるってば、ツナが大空みたいに優しい奴なのはさ!』

「そういう事だな!」

「ハヅキがそういう事サラッと言っちゃうとさー、何か真面目に見えるじゃん!」

『どういう意味!』

「つかこれ時間進んでるぞ」

「あ、落書きか」

『やば!えーどうしよ、まずイメージカラーで名前書くでしょー、他何かない?』

「何かって言っても…口癖とか?」

『あっそれ貰い!獄寺はやっぱ果てろ!だよね』

「なんでだよ!」

そんな具合にデコレーションをしてプリントされるのを待ち、4人で綺麗に分けあった

「こんなモンのどこが良いんだ?」

『女子にとっては撮る事に意味があるの!みんなでポーズ合わせたりわいわい落書きしたりねー』

「時々よく分かんねーよな!」

「女の子って思考回路が神秘的らしいよ」

『それは分かる!繋がりが不思議なんだよ』

「お前も一応は女子だったって事だな」

『何それ!』

そんな軽口の一つ一つも噛み締めながら、夏までのカウントダウンを過ごした
休日には季節外れの海を見に行ったり花火もした

そして、とうとうその日が来てしまった

『今日で、もう暫くは会えないんだね』

「多分数年は向こうに缶詰かなぁ」

3人が空港に行ってしまうまでの少しの時間

「何しんみりしてやがんだ馬鹿ハヅキ、海超えりゃ普通に会えんだろ」

『海超える時点で遠いから!それにイタリア行ったら連絡先分からないじゃん』

「手紙は書くぜ?人生初のエアメールな」

「そう言えばそうなるね。携帯持ったらアドレス書いて送るよ」

『絶対だからね?みんなは私の一番の親友なんだから、忘れたり何かしたら祟るよ!』

「祟るなよ!魔除けグッズ送りつけるぞテメェ」

「はい、一旦落ち着こうか獄寺君。俺もハヅキの事は大事な親友だって思ってるよ、忘れる訳ないから」

「そうだぜ。また次会えた時も集まって喋ろうぜ!」

「ま、当然だな」

3人の笑顔に曇りは無かった
それに小さく微笑み、別れ際に用意して来た花束を渡した

『これ、ライラックって言う花でね、花言葉は友情と思い出なんだ』

「そっか…俺達にぴったりだね」

「枯れないようにしねーとな!」

「最後の最後で気取りやがって…」

『良いじゃんこういう日くらい。みんな元気でね!』

しっかりと握手をして見送った

遠い世界で歩んで行く友に、紫の花に乗せた言葉を餞として送ろう
1輪ずつだけ忍ばせたラベンダーと一緒に



end

((あなたを待っています))
(いつかまた笑い合いたいから)

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