短編中編

□for you pure like
2ページ/6ページ



キュッと最後の文字をペン入れすると、配付用のビラの原稿が完成する

『うっし!こんな感じだな』

すべて黒なのは問題では無いが、4人の影絵が学校の印刷機で綺麗に出るかは心配になる

『まぁ何とかなるか。さーて、職員室行って印刷機使わしてもらわねーと…100枚で良いかな』

そこからの行動は迅速だ
印刷機の貸し出しに渋る教員を(脅しと言う名の)交渉で黙らせ100枚刷り、何枚かは各階の掲示板と踊り場に貼り、遭遇した顔見知りに宣伝
因みにメンバーの人気のおかげで女子の食い付きが良い
流石ファンクラブパワー

その足で向かうのは高校の一室
こっちでも相変わらず独裁体制敷いてるおかげで風紀委員に呼び止められはしたが、これまた相変わらずの副委員長に通され難なく潜入する
草壁も一応リツと雲雀の関係を知っている数少ない人間だ

『恭弥!』

「…珍しいね、休みなのに君が来るの」

『今年はちょっといろいろやってんだ。とりあえずこれな』

「何、広告?」

『並中の学園祭さ、絶対来てほしいんだ』

チラシの文面から顔をあげると、真面目な目をしていた
雲雀はつくづくこれに弱い
ついつい流されてしまうこともしばしば

「仕方ないね、行ってあげるよ」

『サンキュー!じゃあこの曲聞いといてくれな。特に後半』

「じゃあって何?分かった、後で聞いておく」

それを聞くと満足そうに、右耳に付けたままのピアスに触れてから応接室を出て行った

「突然来たと思ったら…豆台風だねリツは」

壊れ物に触るように触れた右耳がくすぐったかった
朱を帯びていると気付くのはもう少し先になる





並中の校舎に戻ると、残りの3人がまた集まってセッションに来ていた

「よっリツ、なかなか仕上がって来たぜ」

『まじか!飲み込み速いんだなー山本は』

「つっても、ドラムはまだ手ぇ付けてねーけど」

『大丈夫だって、まだ夏休みだけでも3週間あるし』

「だな!」

やはり感覚的に覚えて行く山本と相性が良いのか

『2人は調子どうだ?』

「俺はまぁ大体形にはなってるぜ。ピアノも何とかなるはずだしよ」

『そっか。綱吉は?』

「俺もぼちぼちかな。やっとコードとか覚えたくらいで」

『譜面は役に立ってるか?』

「うん、かなり助かってるよ。作ってくれてありがとうリツ」

『いいってことよ
どうせソフトに突っ込んで譜面化したの印刷しただけだしさ』

耳コピがどうも上手くできないと相談を受けた7月の終わりに、ソフトの有効活用で譜面を作ったのは記憶に新しい
読み方やコードは自分で調べて書き込んでいるようで、感心だ

「そういうリツは何してたの?」

『ん?チラシ作っていろいろ宣伝して周ってた。お前らの人気のおかげで女子の掴みはバッチリだぜ』

「いや、それリツも入ってるからね」

『馬鹿言うなって』

「ははっリツは相変わらず認めねーのな」

「けっ」

『だって俺は2人みたいにバレンタインに女子に囲まれた事ねーし』

「それは俺もだけど」

『綱吉は「最近沢田かっこよくなってない?」って女子の話聞くぜ?』

「えっ嘘!」

『でも綱吉は笹川一筋だもんなー、興味ねーよなー』

「う、否定はしないけど」

『まぁ俺も恭弥一筋だから他の女子はひじきの生えた大根くらいに思ってる』

「喩えが酷ぇ!」

『んじゃ引き続き練習頑張れ!俺は暫くミシンと戦って来る!』

そう言い残して音楽室を後にする
注文した素材が届いたので、採寸したサイズより少し大きめにTシャツを作り始める

残された3人は各自に練習しつつ、たまに会話をしていた

「何か、久々に青春してるって感じ」

「そうっスか?」

「確かに、前までは結構殺伐としてたもんなー、今は野球してる時みたいに楽しいぜ」

「黒曜の一件から何かと戦い続きだったからな」

「そう考えると、誰も欠けずにここまでこれて良かったよね」

「だな!」

「それもこれも、ファミリーを第一に考えて戦って来た10代目のお力っスね!」

「いやそこファミリーに繋げないで良いから!あ、そろそろ通しで合わせてみない?」

「そうだな!」

「やりましょう10代目!」

ボーカル不在のセッションが暫く音楽室から響いていた



そんな充実した夏休みを過ごし、終わりの頃には3曲ともミス無しで演奏するまでになった

『んじゃ、それぞれのパート毎に録音すっか』

「録音?」

『そそ。一気に撮ると音割れして音質ひでーから』

地味にコンサート終了後に販売も予定している
持参したノートパソコンに機材を繋ぎ、エレキは出力先を弄れば準備完了だ
原曲をイヤホンで聞きながらタイミングも合わせて録音していく

「っと、これで良いのか?」

『おう、バッチリ!』

さっさと機材を片付ける
今回ばかりは電子ドラムとピアノを駆使した

残るは本番の緊張に打ち勝つだけだ



.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ