短編中編

□送り桜
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3月の上旬
冬の寒さが解け、芽を出した桜が花を付け始める頃
全ての中学校は卒業式を迎えていた
並盛中も例外では無く、ハヅキは卒業生として出席した

式典も終わり、校舎では別れを惜しむ姿も多く見られた
慣れ親しんだクラスのメンバーとの別れもそこそこに、向かう先は野球部の部室

ただ一人のマネージャーとして、共に歩んで来た部員達との小さな送別会をするのだ

「おっ来たか、俺達のマネージャー!」

『もう皆集まってたんだ』

「補欠の1年坊主達も皆いるぜ」

卒業生を囲むように集まった部員達の中にはちらほら涙を流す者もいた

『全く、卒業生より泣いてどうするんだか』

そう言いながらハヅキも貰い泣きして涙ぐむ

「華藤先輩と甲子園に行けなくて悔しいっス!」

『来年頑張れば良いじゃないの!南ちゃんじゃないんだから』

「華藤先輩がマネージャーで良かった!来年絶対追っかけますんで!」

『うんっ並高で待ってるよ』

それぞれの言葉に一つずつ答えていくうちに、ポロポロと涙が落ちてくる

「ハヅキ先輩」

ぽふりと頭に温もりが乗せられた

『山本君…』

野球部のマネージャーを始めた次の年に入部して、1年生でレギュラーになったのが印象的な後輩だった
そして密かにハヅキが心惹かれた初めての人だ

「お疲れさん、先輩」

『うん、ありがとう』

少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべる山本を見て胸が高鳴ったのを感じた
溢れて来る涙を拭い、心を決めた

『ね、山本君…少しだけ時間良いかな』

「ん、良いっスよ」

『じゃあ、ちょっと来て?』

腕を引いて部員達の輪を抜ける
他の後輩達に謝りつつ部室の影に向かった

「先輩?」

わざわざ周りから死角になる場所に連れて来た事に疑問を浮かべている

『こんな日だから…ちゃんと、伝えておこうと思って…』

気恥ずかしさから相手の顔を見れず俯いたまま言ったが、次に続く言葉は顔を上げてはっきりと告げた

『私、山本君のことが好き』

「!」

『野球してる姿も、友達と楽しそうに話してる姿も、私を先輩って呼んでくれる声も笑顔も、山本君の全部が好き』

思い出すだけで何度も笑顔になれた日々が脳裏に蘇る

『きっとね、君に恋してたから今まで頑張れたんだと思う。だから…ありがとう、山本君』

堪え切れなかった涙が一粒だけ頬を伝った

「ハヅキ先輩」

名前を呼ばれた瞬間温もりに包まれた
身長差のせいか、山本の腕にすっぽり納まってしまった

「俺、先輩にこんなに想われてたんだな…すっげー嬉しい」

『山本君?』

抱き締めた腕を緩め、眼を見合う

「俺も先輩が好き」

『え?』

「マネージャーの仕事こなしてる時とか、応援してくれる時とか、いつも頑張ってる先輩を好きになってた
頑張りすぎてるの見て、支えたいとか、守りたいって思うのは、きっとそう言う気持ちがあったからだと思う」

素直な言葉が心に染み渡って行く

『うん…そうだと良いな』

「ホントは俺から言うつもりだったんスけど、先越されちまったな!」

『私は先に言えて良かった!気持ちだけでもって思ってたから、両想いだったなんて得した気分だよ』

照れくささはあるが、それ以上に嬉しさが勝っている

「先輩…」

『ハヅキだよ』

「へ?」

『呼び捨てで、名前で呼んで?』

新しい関係を築く一歩目としてそう切り出した

「…ハヅキ」

『…はいっ』

満足そうに笑う

「高校、絶対追いかけっから!」

『うん、待ってるよ…武君!』

重なる二つの影を桜が見送っていた





end





3/1を持って管理人が母校となる高校を卒業したんでそれに合わせてみました
つっても本文の彼ら中坊ですがね
運動部の卒業式風景とか無縁なんでよく分かりませんがまぁ、そこはフィクションと言う事で一つ
年の差良いよね!!

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