短編中編

□つたえたい、旋律
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雷門中七不思議の一つに
放課後の一定の時間になると、どこからか歌声が響き渡る

と言う怪奇現象があるらしい

[らしい]と言うのは勿論誰も聞いたことが無いと言うことを指す
それでなくともついこの間雷門に入った俺が確認した訳でも無いからだ

「そもそも、その手の話は誰かの話を又聞きしたとかが多いし、信憑性が無いよな」

「確かに…」

適当に区切りが付いた所で、練習に向かった





その日の帰り際の事だった

「…?」

僅かだが声が聞こえた
他の部員達には聞こえていない様だから気に止めなかったが

数時間前の会話があったせいか
もしかしたらと言う思いがよぎった



それが出会いだったのかも知れない





鉄製の重い扉を開き今日も居るだろうそいつの名を呼ぶ

「ハヅキ」

『ん、また来たんだ。相変わらずヒマしてるねぇ』

「お前程じゃない」

『だろうね』

因みに今は昼休みだ

「また唄って居たのか?」

『まぁね、ヒマ潰すには丁度良いから』

先程まで響いていた澄んだ歌声は、やはりハヅキのものだ

何時ぞやの放課後に聞いたそれの正体が彼女だった訳だが
今までに無く衝撃的だった





その日、あの声の真相が気になった俺は、引き寄せられるように屋上に向かった
躊躇無く扉を開いた直後
黒い紐のような物が向かってきた

「これは…!」

とっさに呼吸の術は確保したが、それは解けそうにない

『…あらまぁ、こんな時間に人が来るなんて、珍しい』

「誰だ」

『あ、ごめんごめん、驚かしちゃったみたいで』

黒い物体は少女が現れると共に消えた

『こんな時間帯に人が来るなんて思わないからさ、こっちもびっくりしちゃってついね』

「お互い様と言うわけか」

『みたいだね』

少女はふわりと浮くとフェンスに音もなく腰掛けた

「…お前は、何なんだ?」

『[誰]って聞かない辺り
薄々気付いてるんじゃない?
ま、見ての通り生きてる人間じゃあ無いね

…学校妖怪って聞いたことある?
有名なのはトイレの花子さんとか呼ばれてるやつ』

「まぁ、人並みには」

知ったのは今日だがな

『あたしもその類な訳よ
こないだ学校壊れたじゃん?
あれで此処にいた殆どの子は居なくなっちゃってスッゴいヒマでさー
折角だし、話し相手にでもなってくれないかな』

「………」

妖怪の話し相手とは…なかなか非現実的な立場だな

それでも承諾したのは
単純にこの少女に興味が沸いたからだと思いたい

そして今に至るわけだ
因みにハヅキと言うのは
『名前?んー覚えてないや
適当に呼んでくれて良いよ』
との事なので俺が勝手に付けた

本人はそれなりに気に入ってるようだ
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