暁
□歩道橋の上で
1ページ/1ページ
もう太陽が傾きかけ、ビルの後ろに隠れようとしている今、夕暮れ。
なのに俺は歩道橋の上で動く事なく、沈んでいく夕陽を眺めていた。
その夕陽から目線を少し下げるとそこには橋の袂(たもと)で、綺麗な茶色い髪をたなびかせている女が一人。
周りの景色は朱色に染まりつつあるのに、その女だけは自分の色を持っていた。
とても美しい女性。
俺はこの女を知っている。
昨日も一昨日もそこに居た。
橋の袂でずっと川を見つめていた。
悲しそうな顔でずっと……。
話かけたくても、話かけられない。いつもの俺なら、何も考えずに絡んでいた。
でも、今回は違う。
どう言い訳つけて絡もうか、どう話かけたら悲しい顔をしないで笑ってくれるか…。余計な事を考えちまう。
そう思ったら、改めて自分の臆病さに気づく。ただ笑ってほしいだけ、ただ幸せになってほしいと願えば願う程、臆病さが増す。
そして、今日も歩道橋の上から彼女を見つめている事しか出来なかった。
歩道橋の上で
END.