はじめての恋は、王子様と。
□はじめての恋は、王子様と。
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台所へと降りて行くと、すでに使用人のマーサが朝食の準備をしていた。
「おはよう! マーサ」
「おはよう。今日は忙しくなるね」
「そうね。がんばらなくっちゃ!」
サラは前掛けをさっと腰に巻き付け、古ぼけた木のバケツを手に外へ出る。
建物の影になった庭はまだ薄暗い。
冷たく澄んだ空気が胸にしみ込み、体中を洗っていく。
目線をあげると、こんもりと盛り上がる森の向こうで、白々と輝く尖った塔が空を突き刺していた。
それはこの王国を治める王の住む城の一角だった。
今日の夕刻、その城で舞踏会が開かれる。
サラは、特別にそれに行く許可を〈義母〉から貰っていた。
ただし、時間までに全ての用事を片付けることを条件につけられはしていたけれど。
御歳十八になられるラファエル王子殿下が、そろそろ本腰を入れてお妃を探している。
そしてそれは、王室に新しい風を吹き込むためにと、貴族の娘だけでなく、平民からも広く集められている
――そんな話もサラの耳に入っていた。
だから義母をはじめ、サラの二人の義姉たちもひどく気合いが入っているのだ。
サラの実の母が亡くなってしばらくした頃、父は、二人の娘を連れた今の母と結婚した。
商人である父は、前々から商品の仕入れで家を空けがちだったのだけど、
留守の間のサラのことを心配して、降って湧いた縁談を二つ返事で受けてしまった。
そうしてやってきた新しい家族は、サラに暖かかった。
だからサラは最初、心から彼女たちを歓迎していたのだ。
けれど、――現実は厳しい。
義母も姉も、父の前で猫を被っていただけで、父が家庭の円満を確信した後、こっそりとサラをいびり出した。
――まるで、おとぎ話の〈灰かぶり〉のようだわと、思ったものだ。