はじめての恋は、王子様と。

□はじめての恋は、王子様と。
4ページ/31ページ

 ◆

 隣家との狭間にある古ぼけた井戸の前では、赤毛の少年が腰掛けて、手に持った新聞を熱心に読んでいる。

 彼はサラに気がつくと、無愛想に言った。

「おはよう、サラ」

 普段は同じように無愛想に返すところなのだけれど、今朝のサラは彼に満面の笑みを向けた。

「おはよう! ――あのね、あたし、今日の舞踏会、行けることになったのよ!」

 昨日、サラの懇願を汲んだ父からの返事が届いた。

『サラを舞踏会に行かせなさい』
という一言が書かれたそれは、もはや説得ではなく命令だった。

それでも渋る母から了承を得たのは昨日の夜の事。

 学校の友達には『もう行けないかもしれない』と嘆いていた。

降って湧いた幸運を誰かに話したくてしょうがないサラは、獲物を逃すまいと新聞を押しのけ彼の顔を覗き込む。

「ああ、そう」

 彼はプイとサラの瞳を避けると、後ろを向いてがさごぞと新聞を開いた。

サラはまったく面白くないその反応に小さくため息をつく。

(あ〜あ。やっぱり聞く気なし、ね)
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ