短い読物

□墨染め
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「…新しい子?」
「ピッカピッカの〜八年生」
「………」
 八年ねぇ…ま、死神ならピカピカかしら。
「前線の救援、行ったらんとマズイて気ィ付いた時には、ボクもイヅルも間に合わんかってん」
「前線の指揮官は?席官、いたんでしょ?」
「一気に共倒れ〜」
 手探りで床の酒瓶を探している。まだ飲む気?言ってた書類は?
 片付けられていない机の上に、放り投げるように置かれていた書類を手に取る。余計な美辞麗句を省いた、簡潔な書類が出来上がっているではないか。
 近くに来たのをこれ幸いと、肩に頭を乗せてくる。さ…酒臭い。
「市丸隊長とォ〜吉良副隊長にィ〜お怪我が無くてェ〜良かったですぅ〜これ以上ォ〜お役に立てなくてェ〜スミマセン〜やて」
 声を殺して笑っている。ギンは泣けない。涙をなくした、本人はそう公言していた。
「……ピッカピッカの八年生達が?」
「そ」
「…そっか。今晩、泊まってく?」

 ギンは、泣きたくても泣けない時に乱菊の所に来る。ガタイも態度もデカいし、素直じゃないし、可愛くないけれど。逃げ場にされているのは分かっているけど、やはり追い返せないのだ。ここにしか来れない、と言外に言われては、追い返す訳にはいかない。(あたしも甘いわね…)


 昨夜の酔っぱらいは、しっかりとした足取りで、明け方前に帰って行った。

 辛かったら、また来ればいいわ、と言う間もなく帰っていく。乱菊が寝ている間にいなくなる。いつまで『逃げ場』、『帰る場所』でいさせてくれるのだろう。自分がいなくなったら、アイツは何処へ行って泣けけばいいんだろう…?


 待ってるから、ギン。何時でも帰ってきていいからね……




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