短い読物

□再会
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「…見ぃ〜つけた…」

 般若とまではいかないが、可愛らしい顔が生成りのようだ。その大きな猫目は、首席合格者の名前を映している。

「やっと見付けたわ…今度こそ逃がさないからね、ギン?」

『腐腐腐(ふふふ)』と笑いが零れる。ギンが居なくなって、どれだけ苦労したかは問題ではない。いつもなら2、3日、長くても一週間もすれば帰ってきたのに、しばらく待っても帰ってこない。乱菊は、寂しくて女々しく泣き暮らすのではなく、自分の足で探しに出た。そして、ようやく見付けた。市丸ギン。しれっとした顔で座ってられんのも今のうちだからね…

「教本貸してくれない、市丸くん?」
「あァ、隣の組の…松本サン、やったっけ?忘れたん?それとも無くさはったん?」
「忘れたの!じゃ借りるわね」

 何でや!?何で居てるん?あり得へんやろ!?あービックリした…何や見覚えある後ろ姿やな、とは思っとったけど、まさかホンマもんの乱菊とは…こないなトコまで来るなん、しかも同期やなんて…思わんかった…いや、乱菊やったら追っかけて来るかも、て考えておくべきやったな…

「松本さん、あの市丸と知り合いなの?」
「親しそうだったけど、どういう仲?」
 まとわりつく男子学生など目に入らない乱菊。

「市丸くん、松本さんと何、話してたの?」
「市丸くん、松本さんと付き合ってるってホントなの?」
 群がる女子学生など眼中なしのギン。


(まずは、黙っていなくなって帰って来なかったこと、土下座させて謝らせてやる!)
(とにかく乱菊と二人っきりにならんようにせなアカンな…)
 戦々恐々である。
 姿形こそ小さいが、人目をひく容姿をしている二人だ。片や夜と冬を集めた冷たい色、もう片方は昼と収穫の季節を彷彿させる、暖かい色をしている。


『真昼の太陽は、夜の月を捜し、月は太陽に恋焦がれる』現世の、何処か遠い国のお伽噺に、思わず笑ってしまった。ギンが図書室の片隅にあったその本を手に取って苦笑して、同じ本を、やはり乱菊が見付けて同じように笑ったのが、その一週間後。

 惹かれ合っていても一緒にいれないこともある。その時々の周囲の環境だったり、事情だったり。乱菊とケンカした訳ではない。ただ、乱菊から距離をとらなければ、野党やゴロツキよりも、守りたいと思っている自分が、乱菊を傷付けてしまうから。

 ギンが並の霊力でないことくらい、気付いていた。力の制御が出来なくなってきていたことも。だったらギンなら、死神になる学校へ行くに決まっている。追い掛けた。責める為ではなく、一緒にいたいから。

 それから一年で、ギンは卒業して死神になる。入隊した先が、その後の二人の運命を大きく変えてしまうとは気付かずに。



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